犯罪被害者支援 広がる条例制定 半数市町は未整備で格差も
静岡県内で犯罪被害者の支援に特化した条例を制定する自治体が増加している。11月現在、全35市町のうち19市町が支援条例を設け、見舞金の支給制度を定める。被害者の社会復帰を後押しするには経済的支援や周囲の理解が欠かせない。関係者からは「県内全域で支援体制を確立し、被害者保護に理解を深めてほしい」との声が上がる。

2019年7月、沼津市のスナックで殺人未遂事件が発生し、男女2人が腹部を刺され重傷を負った。事件後、被害者のうち支援条例がある長泉町に住む男性は町に見舞金を申請し、10万円を受け取った。一方、沼津市の女性は治療や防犯対策などに約200万円を費やしたが、当時は市に条例がなかったため経済的支援を受けられなかった。
県内では、17年の藤枝市を皮切りに支援条例の創設が進み、22年は新たに11市町が制定。浜松市は4月、「犯罪被害者等支援条例」を定めた。被害者が死亡した場合は60万円、重傷病を負った場合は20万円を支給。遺族の範囲に内縁関係のパートナーや、性犯罪も支援対象に加えたのが特徴で、同市市民生活課の鈴木信幸くらしのセンター所長は「住民の生命財産を守り、被害者の早期回復を支えるのは行政の役割。被害者保護の重要性も訴えていかなければならない」と語る。
県内では約半数の市町で被害者支援条例が未整備のままで、居住地域によって公的支援に格差が生じている。静岡市は防犯対策推進の一環で被害者相談窓口を設置しているが、支援条例や現金給付の制度はない。県は15年に支援条例を設け、心理カウンセリングや遺体搬送などの費用負担を行っているものの、「現金給付といった直接的な経済支援は住民生活に最も身近な基礎自治体が推進すべき」(県警相談課)との立場だ。
近年はインターネット上やSNSで犯罪被害者への誹謗(ひぼう)中傷なども社会問題化している。NPO法人静岡犯罪被害者支援センターの松井宏臣事務局長は「被害者救済は人権保護でもあり、等しく支援が行き届くべきだ」と指摘。「全自治体が支援条例を用意すれば、犯罪被害者に優しい社会形成につながるのではないか」と述べた。