大自在(11月27日)森保監督の采配

 決勝ゴールを決めた俊足フォワード浅野拓磨選手はスタンドに向け、両手の爪を立てる「ジャガーポーズ」を見せた。サッカーワールドカップ(W杯)1次リーグで日本は強豪ドイツを2―1で撃破した。
 後半、選手交代して攻撃的な布陣に変更した森保一監督の采配が脚光を浴びている。采配は神主が振る御幣[ごへい]に似た道具で、戦場で大将がこれを振って「かかれ!」などと指揮した。塵[ちり]を払うハタキを采配と呼ぶ地方もある。
 歴史的な大金星を「攻撃的采配実る」と伝えた他紙の見出しになるほどと思ったが、通常は采配を取る、采配を振るなどと使う。文化庁の国語に関する世論調査で、本来の「振る」を使うと答えた人は約3割。「振るう」という人は5割を超えた。
 采配をあっちにこっちに振るっては戦士が混乱するから「振る」が正しいという解説はうなずける。しかし、ドイツ戦で的中した森保監督の大胆な采配は「振るった」のほうが適当かもしれない。
 「采」の部首は「つめがしら」。「爪」が漢字の上部に置かれると「爫」になる。爪と木を組み合わせて、「木の実を手で摘み取る」意味になる。手の末端つまり「詰め」にあるから「つめ」なのだと万葉学者の中西進さんの著書に教わった。
 日本代表の胸のエンブレムには、神武天皇の東征で道案内をしたと記紀にある3本足の「八咫[やた]烏[がらす]」がいる。取られてなるものか、とボールに爪を立てているようにも見える。きょう、コスタリカ戦。「8強」へ向け手を伸ばし、爪を立てて勝利をつかみ取ってほしい。大和魂を。

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