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社説(11月26日)デジタル教科書 運用の環境整備怠るな

 全国の小中学生に1人1台の情報端末を配備する国の「GIGA(ギガ)スクール構想」が本格的な実践段階を迎え、2024年度から「デジタル教科書」が全小中学校の小5~中3の英語で先行導入される。25年度には算数・数学にも広げる方針だ。
 パソコンやタブレット端末に表示するデジタル教科書は、動画や音声の利用、文字や図表の拡大など、新たな時代の教材として多くの長所がある。同時に手間をかけて調べることがおろそかになったり、教育現場の対応力にばらつきが出たりするなどの懸念や課題も指摘されている。効果的な運用のための環境整備を怠ってはならない。
 デジタル教科書は法改正により19年4月以降、学校側の判断で正式な教科書として使用することが可能になった。今年3月時点で公立小中高校と特別支援学校のうち導入した割合は35・9%で、前年同期の5倍以上に急増している。
 文部科学省は、22年度には実証事業として希望する全小中学校で英語のデジタル教科書を無償で使えるようにした。全国一斉での導入では、実証事業で実績があり、ネーティブスピーカーの読み上げなどが高い学習効果を生むとされる英語を先行させる。
 同省は当面、紙の教科書と併用し効果や問題点を検証しつつ、中長期的な方向を検討するとしている。読解力の向上には紙の教科書の方が効果的との研究結果もあり、デジタル教科書の活用について現場が試行錯誤している状況を考えれば妥当な判断だ。
 政府内にはコスト減のためにデジタルへの完全移行を求める声もあるようだが、次代を担う子どもの教育に関することであり、経済性優先の発想で性急に進めるべきではない。
 軽視できない不安材料もある。デジタル端末に関する同省の調査で、教員の半数近くが「児童生徒が授業と関係ない操作に集中することがある」と答えた。長時間画面を見ることによる視力、姿勢の悪化やインターネット依存なども懸念されている。
 山口県岩国市の中学では、職員室で交わされた教諭らの会話が生徒のタブレット端末に録音され、複数の生徒に内容が流出する事態となった。生徒が教室に忘れた端末を職員室で保管した際、何らかの理由で録音機能が作動し、返却された端末に生徒に関する生活指導の情報や教諭の個人的な感情などが録音されていた。
 具体的な機械操作やリスク管理を含めた教職員への支援も重要なポイントだ。研修などを充実させる必要がある。

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