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公立高校入試 現行制度検証へ 静岡県教委、改善必要性を判断 調査書や裁量枠の扱い焦点

 静岡県教委は2022年度、県内公立高の入学者選抜について現行制度の検証に乗り出す。県議会などで調査書(内申書)の扱いや県独自の「学校裁量枠」に関する指摘があったことを踏まえ、08年度から続く制度を外部有識者と検証し、改善の必要性を判断する。

高校入試の在り方について話す中村高康教授=東京大
高校入試の在り方について話す中村高康教授=東京大
高校入試の在り方について話す中村高康教授=東京大

 静岡県の公立高入試のうち全日制の一般選抜には、各学校が独自に重視する観点や選抜資料を決める「学校裁量枠」と、学力検査と面接、調査書の結果で段階的に選抜する「共通枠」がある。共通枠のうち75%程度は、第1段階として調査書の9教科評定と学力調査の合計点で選抜する。その上で10%程度を調査書と面接、残り15%程度を全選抜資料の総合的評価で選抜する仕組みになっている。
 共通枠の選抜を巡り、県議会では「調査書偏重の入試制度」として見直しを求める意見が一部から出ていた。外部委員による川勝平太知事の諮問会議でも、「中学生が内申点で教員に受験校を決められ、主体的に進路を選択できていない」との指摘もあった。県教委は21年度、中高の生徒と保護者、教員を対象に高校入試で重視するべき選抜資料について意見を聞く調査を実施した。ただ、調査では生徒側で調査書重視を求める回答が一定数を占めるなど意見が分かれ、改革の必要性を判断する具体的根拠は得られなかった。
 共通枠に優先し選抜される学校裁量枠でも、部活動の実績などを評価する「文化的・体育的活動」の観点を設ける学校が多く、特に運動部で男子生徒のみを対象とする競技を設定する学校が多いことに、一部の教育委員から「文化部の生徒や女子生徒との受験機会が不均衡」と指摘が出ていた。県教委は裁量枠に新たな観点を追加するなど改善を試みているが、部活動重視の傾向は変わっていない。
 県教委は22年度中に外部有識者らによる検証委員会を設け、年度内に検証結果をまとめる方針。高校教育課は「小さな改善点はすぐに反映し、抜本的改革が必要なら一定の年数をかけて検討したい」としている。

 
教育関係者 評価さまざま
 県内の教育関係者に公立高入試への意見を聞くと、県教委の調査結果と同様にさまざまな評価が聞かれる。県西部の県立高校長は「現行制度は普段の学びと試験当日の成果の双方を評価できる。試験で実力を発揮できない生徒がいるため必要だ」と強調する。
 秀英予備校静岡本部校の真田栄司講師は、「中3の成績を反映する本県の調査書は、中1からの成績を使う他県に比べ挽回が可能。学力検査も記述問題で思考力や表現力を測る狙いがみられる」と評価する。内申点が足りない塾生には学校に改善点を確認するよう助言しているという。
 浜松市中区の学習支援教室「学びのいろは」の寺岡勝治代表は「複数校の生徒を見ていると、内申点の付け方に学校や教員により差がある」と指摘し、「内申点の不公平感を解消する明確な基準を示してほしい」と求めた。

 
県外で抜本的見直しの動き
 大学入試では受験生の力を多面的に評価する方向で入試改革が行われる中、県外では調査書比率の見直しや新たな試験の導入など、高校入試制度を抜本的に見直す動きもある。
 広島県は23年度入試から、一般枠(静岡県の共通枠に相当)で学力検査と調査書の比率を見直し、学力検査6割、調査書2割、新たに導入する「自己表現」を2割で評価する。調査書を簡素化し、自己表現で生徒自身が部活動の実績や将来の目標などをアピールする。
 東京都は22年度、公立中3年生を対象に実施する英語スピーキングテストの結果を、都立高入試の選抜資料に活用する方針を決めた。ただ、試験方法や不受験者に仮想点を与える制度に公平性を疑問視する声が上がり、11月27日のテスト実施を目前に反対運動が行われるなど波紋が広がっている。

 
透明性高める努力を 中村高康・東京大大学院教授
 高校入試の調査書が中学生の行動に与える影響を研究する東京大大学院の中村高康教授(教育社会学)に、公立高入試制度の在り方について聞いた。
 ―調査書の意義や弊害をどう捉えているか。
 「日本では戦後以降、入試は現在の学力と過去の実績の両面を評価するべきとの考えが定着し、調査書は一発勝負のテストで進路が決まるプレッシャーを緩和する教育的配慮として機能してきた。一方、調査書では日常の学習活動が評価の対象となり、中学生は常に監視されるような状況が続く。『良い子競争』と表現する人がいるように、教員からよく見えるよう日常生活を磨き上げる行動が中学生に広まってしまうのが最大の弊害。20年度に全国の高校生約3千人を対象に行った調査では、多くの中学生が受験のため調査書を意識して行動する傾向がみられた。特に入学難易度中間層の高校に進学した生徒で、調査書のために教員に叱られないようにするなどの行動を取る傾向が強かった」
 ―調査書と学力検査の比重はどうあるべきか。
 「高校入試は歴史的に学力テストと調査書をバランスよく評価する形が当たり前とされてきたが、これは大学入試で言えば推薦入試と一般入試双方の評価が必要な状態。実は中学生にとって負担の重い制度ではと感じる。一方、1日限りのテストで能力を測るには不合理な面もある。静岡県の調査にもある通り、調査書の評価は中学生からも一定の支持を得ているため、両立は必要になる」
 「大学入試で選抜方法が多様化し、新たな能力が評価されているように映るかもしれないが、入試の多様化の流れが正しいとする議論には抵抗感がある。従来の試験方法で思考力や表現力を全く評価できないわけではない。都道府県や学校によって基準の違いはありうるが、どんな選抜方法でも、制度の透明性を高める努力が重要になる」
 ―入試制度の検証や改善の留意点は。
 「近年の入試改革は、教育行政の側が『やらせたい入試』を決めすぎている。入試はあくまで必要悪の制度。定員を超える志願がある場合にやむなく選抜するため、学校で最も正当性がある基準としてテストや調査書がある。高校入試がここまで大衆化した時代に、入試を変えることで子どもの能力を伸ばすという発想は時代遅れだ。特に公立高は幅広い層の生徒を対象にする教育が大前提。制度を変える際には、受験生を置き去りにすることのない議論をしてほしい」

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