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休日は内緒でオーディション 卒業から3年で朝ドラ主演 俳優の渡辺梓さん【富嶽から羽ばたく 富士高100周年③】

 夢見がちな女子高生は卒業から3年で朝ドラ主演女優へと駆け上がった。俳優渡辺梓さん(53)の代表作といえば、NHKの連続テレビ小説「和っこの金メダル」だ。バレーボール選手の和っこちゃんとして脚光を浴びて30年余、全国の舞台を飛び回りながら、美術家の夫と空間デザインにも携わる。

次回作の台本を読み込む渡辺梓さん。さまざまな経験を糧に、演技力は深みを増す=横浜市中区
次回作の台本を読み込む渡辺梓さん。さまざまな経験を糧に、演技力は深みを増す=横浜市中区

 「制服をおしゃれに着こなす先輩たちに憧れました」。髪形や服装に気を使い、放課後は友達と痩せなきゃと言いつつ学校近くのパン屋に寄ったり、富士本町商店街でお茶したりと、青春を謳歌(おうか)した。俳優業には入学当初から興味があり、オーディション情報誌を眺めていた。
 転機は2年の新体操部の大会で訪れた。演技中に音楽が止まるトラブルに見舞われた。踊り続けると次第に観客の手拍子が大きくなった。「私にも観客の心を動かす力があるかもしれないと思うほどうれしかったです」。演技の仕事が憧れから目標に変わり、休日は誰にも内緒で都内にオーディションを受けに行った。
 並行して受けていた共通一次試験を終えて、ようやく家族に役者志望を打ち明けた。反対を押し切り、難関の養成所「無名塾」に合格できなければ働く条件で許しを得た。卒業式間際に届いた合格通知は「一生の宝物です」。
 朝ドラ出演に地元は沸いた。「知らない親戚が増えました」。世間からいつまでも役名で呼ばれることには抵抗を感じたが、経験を重ねるうちに「自分が出会えなかった人生を体験できるドキドキ」を楽しめるようになった。舞台を見に来てくれる同級生からも活力をもらっている。
 「高校3年間は自分の夢と素直に向き合って良い時間でしょう。大学受験が当たり前の学校で、挑戦を否定せず背中を押してくれた先生や友達のおかげで今の私があります」。デビューから所属した無名塾から2020年、独立し再出発を切った。次回作の台本を読む瞳には、終わりなき夢の続きが映っている。

 わたなべ・あずさ 高校卒業と同時に、俳優仲代達矢氏が主宰する若手俳優養成所「無名塾」に入塾。映画「望郷の鐘」やドラマ「いのちの器」、舞台「マクベス」など多方面に出演する。2010年から、美術家の夫稲吉稔さんとアートプロジェクト「似て非works」を始めた。

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