社説(11月3日)「いいね」賠償判決 ネット中傷への警鐘だ

 性暴力被害を訴えるジャーナリスト伊藤詩織さんが、自身を中傷する複数のツイッター投稿に「いいね」を押して名誉を傷つけたとして杉田水脈衆院議員に損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は一審判決を変更し、杉田議員に賠償金の支払いを命じた。杉田議員は判決を不服とし、上告した。
 ツイッターにおいて、自分の投稿(ツイート)を常時閲覧している「フォロワー」に対し、自分以外の投稿を広める方法は主に二つある。自分のタイムライン(時系列に並んだツイート群)に転載する「リツイート」、投稿への共感を表明する「いいね」である。
 リツイートには賠償を命じる判決が出ている。今回の控訴審は、拡散力が弱い「いいね」にも名誉感情侵害が認められるか否かが焦点だった。
 高裁判決は杉田議員が過去に伊藤さんへのあざけりや中傷を繰り返していたこと、約11万人のフォロワーがいる国会議員であることなどから、積極的に名誉感情を侵害する意図、一般人とは異なる影響力を認めた。「いいね」を押す行為全般の違法性は認定していないが、インターネットユーザーの倫理観低下に警鐘を鳴らす判決である。SNSをはじめとしたネット上の情報サービスの在り方、付き合い方を改めて考える契機にするべきだ。
 ネット中傷は被害者が自殺する事例も出るなど、社会問題化している。根絶はユーザーの自制が第一である。コメントの投稿やリツイート、「いいね」を実行する前に、一呼吸置いて考える態度が必要だ。ネット社会は公の場であり、発言と行動に責任が伴うことをいま一度認識したい。
 ネット空間には誹謗[ひぼう]中傷、やゆ、冷笑が飛び交っている。ネット上の権利侵害の解決を図る違法・有害情報相談センターは2021年度、約6300件の相談を受けた。受け付けを始めた10年度の約5倍に膨らんだ。
 総務省の研究会が今年行った事業者への聞き取り調査では、誹謗中傷への対応の不十分さが浮き彫りになった。一部事業者は削除要請に対応するための人員を十分に確保しているかどうか明確に回答していない。投稿の削除件数もはっきりしない。定量的な情報開示と検証が必要だ。
 改正プロバイダー責任制限法が施行され、ネット中傷の“加害者”を特定する手続きが簡略化された。事業者のヤフーは、ニュースのコメント欄の書き込みを行う際に電話番号の登録を義務化する。ネット中傷の根絶に向けた取り組みを、官民でさらに推進してほしい。

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