リニア工事残土処理 盛り土は「有効利用」か JR東海「該当」との認識、静岡県や専門家は疑問視

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事で発生する残土の処理を巡り、JR東海が、静岡工区で発生する残土の大半を静岡市葵区の大井川上流部に盛り土として存置する計画を「建設発生土の有効利用」と捉え、国や静岡県が掲げる有効利用率の目標値を達成するとの報告書を県に提出していたことが、29日までの同社への取材で分かった。県や建設残土に詳しい専門家は「主に工事での利用などを指す『有効利用』の定義から外れている」と同社の認識を疑問視している。

JR東海がトンネル工事残土を盛り土する計画を示している燕沢近く。対岸には複数の沢があり、沢からの土砂が河川に流入している=8月上旬、静岡市葵区
JR東海がトンネル工事残土を盛り土する計画を示している燕沢近く。対岸には複数の沢があり、沢からの土砂が河川に流入している=8月上旬、静岡市葵区
燕沢発生土置き場
燕沢発生土置き場
JR東海がトンネル工事残土を盛り土する計画を示している燕沢近く。対岸には複数の沢があり、沢からの土砂が河川に流入している=8月上旬、静岡市葵区
燕沢発生土置き場

 JR東海は、静岡工区で発生するトンネル残土を370万立方メートルと見込み、大半を大井川上流部の燕(つばくろ)沢近くに存置する計画を環境影響評価書で示している。一方、2017年1月に県に提出した県環境影響評価条例に基づく報告書では、国、県の目標値に準じる形で「建設発生土有効利用率80%以上」を掲げ、これを根拠に「(工事の廃棄物による)環境影響の回避または低減が図られている」との評価を記載している。
 同社は取材に対し、燕沢の盛り土を「建設発生土の有効利用」と捉えていることを認めた。理由として▽在来種などによる緑化(植樹)を進め、ユネスコエコパークの良好な自然環境に役立てる▽自然体験・教育の場の創出を検討している―ことなどを挙げた。
 ただ、県交通基盤部技術調査課は「植樹しただけで、活用の意義と事実関係が明確になっていない盛り土は、一般的には有効利用とはいえない」との認識を示し、燕沢の盛り土は「現状では残土処分に近い」とした。
 建設発生土の搬出先は、資源有効利用促進法で業者による国への報告が義務付けられているが、有効利用に当たるかは業者の自己申告になっている。建設残土問題に詳しい桜美林大の藤倉まなみ教授も「盛り土は有効利用とは言えない」との見解を示した上で、「真摯(しんし)に環境影響評価を行っているのか、JR東海という企業の社会的責任が問われる」と指摘する。

存置計画「適地か」議論 県有識者会議、深層崩壊発生を懸念

 JR東海が示しているリニア中央新幹線トンネル工事の発生残土を大井川上流部の燕沢近くに盛り土する計画については、県有識者会議の専門部会で盛り土構造の安全性などの議論が続いている。
 計画では、燕沢近くの河原に幅300メートル、高さ65メートルの盛り土を形成する。地質構造・水資源専門部会の塩坂邦雄委員は、計画地のすぐ上流に大型の深層崩壊地「千枚崩れ」があることに懸念を示す。千枚崩れからの土砂が河川に流入し、土砂ダムを形成した場合、ダム崩壊時に盛り土が流出する恐れがあるとし、「燕沢の盛り土が本当に適地か広域的に診断すべきだ」と指摘する。
 生物多様性専門部会では、燕沢周辺に植生するドロノキ群落など生態系への影響についても議論している。

 建設発生土の有効利用
 国土交通省は、残土処分場や土捨て場への搬入を除いた▽工事内やほかの工事で利用▽採石場跡地や農地などへの盛り土―などと定義している。国の統計では、発生現場の工事内で利用されるケースが最も多い。2014年以降に策定した「建設リサイクル推進計画」で有効利用率80%以上を目標に掲げ、県も同じ数値を目標に取り組んでいる。公共事業では、運搬のコストや環境負荷を考慮した「リサイクル原則化ルール」を定め、発生現場から運搬距離が50キロの範囲内にある工事現場に搬出することにしている。

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