社説(10月23日)台風15号1カ月 防災先進県 名ばかりか

 静岡県内に記録的豪雨を降らせた台風15号による災害から23日で1カ月となる。多くの場所で復旧が進んだが、まだ時間がかかりそうな場所もある。関係機関には、誰もが被災前の日常を取り戻すことができるよう、全力を挙げて取り組んでもらいたい。
 県や静岡市の一連の災害対応を振り返ると、不安を感じざるを得ない。清水区では最大6万3千世帯で最長13日間にわたる断水が発生し、市内で近年にない災害となった。ところが、自衛隊の派遣要請が遅れたと指摘されたほか、県と静岡市の連携のまずさも露呈するなど、さまざまな課題が噴き出した。
 静岡県はこれまで「防災先進県」と自負してきた。実態はとても胸を張れる状態ではない。局地的な気象災害で不手際が目立つようなら、より広域的な南海トラフ地震では手に負えなくなるのは明らかだ。これで大丈夫なのか。県全体の災害対応を見直す必要もあろう。関係機関に徹底した検証を求めたい。

 七夕豪雨(1974年)以来といえる気象災害に対し、静岡市の対応はスムーズだったとは言い難い。象徴的なのが被災2日後となった県への自衛隊派遣要請。断水は上水道の取水口を流木と土砂がふさいだために起きた。その撤去に投入された陸上自衛隊第34普通科連隊(御殿場市)約30人が徹夜で作業した結果、約6時間半で完了させただけに、要請がより早ければと強く感じる。
 自衛隊の派遣要請には「公共性・緊急性・非代替性」の3要件を満たす必要がある。田辺信宏市長は当時の対応は妥当としているが、3要件にしばられた上、事態の深刻度を把握できなかったのが実際でなかったか。自衛隊でなければ迅速な撤去はできなかっただろう。県からも市に要請打診があったとされ、早期に決断すべきだった。
 加えて田辺市長と川勝平太知事の個人的な関係の疎遠さを危ぶむ声もある。記者会見で問われて飛び出したのが「知事の携帯電話番号を知らない」「教えてもらえなかった」という市長発言だ。
 トップ同士の直接対話は、あればプラスになるが不可欠ではない。大事なのは組織同士での緊密な連絡調整を欠いてはならないことだ。他方で知事と市長の関係を忖度[そんたく]した周囲が適切な行動を取らなかったとすれば問題だ。
 田辺市長個人の動きも首をかしげたくなる。被災現場を視察する前に地域の敬老会回りなどをしていたと伝えられた。空き時間の「有効活用」とされるが、この動きでは災害対応は二の次とみられても仕方ない。助言ができる側近はいなかったのか。災害はふだんは見えない弱点を容赦なく突いてくる。

 自衛隊の派遣要請については県の対応も疑問を感じる。静岡市が判断できない間、川勝知事は「督促しながら要請を待っていた」としている。プッシュ型支援のように、もう一歩踏み込むことはできなかったのか。県と他の市町との情報共有も十分ではなかったとされる。情報収集も待ちの姿勢ではなく、積極的に取りに行かねばならない。
 一方、放水路や遊水池など過去の災害を受けて設けられた防災施設が、減災につながっているのも確かだろう。効果をしっかり算定して、これから必要とされるハード整備に役立てていきたい。
 行政の初動対応を鈍らせてしまった原因の一つが台風15号に対する過小評価だろう。さほど強力でもなく、警戒度は高くなかった。
 ところが実際は県中・西部で猛烈な雨になった。静岡地方気象台のまとめでは、1時間に110ミリ以上の雨が降った記録的短時間大雨情報が16回発表された。静岡の日最大24時間降水量は416・5ミリで統計開始後最大となった。
 台風の怖さは見かけの勢力だけでは分からない。それを踏まえた予測を求めたい。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞