テーマ : 西伊豆町

社説(10月22日)マイナ保険証移行 国民の納得感が前提だ

 政府は健康保険証の機能をマイナンバーカードに移す「マイナ保険証」への切り替えを進め、2024年秋に現行の健康保険証を廃止すると表明した。国民皆保険制度の下では事実上、マイナカードの取得を全国民に義務化することになる。
 納税や年金、医療など役所がバラバラに持つ情報の一元管理は、適切に運用すればきめ細かな政策立案に資する。デジタル社会の効率的行政運営の基盤になるだろう。
 カードの取得促進と高機能化の議論が停滞すれば国民生活の質の向上に逆行する。マイナ保険証は唐突で、国民への強権的な押しつけだと反発の声が根強いが、事実上の義務化はやむを得ない。
 ただし、住基ネットを活用した政府のIT国家構想が「国民総背番号制だ」との批判で頓挫したように、国民の理解と納得感を欠く政策は壁にぶつかる。個人情報の徹底した漏えい対策を含め、政府は分かりやすい政策効果の説明に尽力すべきだ。
 総務省のまとめで、マイナカードの取得率は50%に達した。都道府県別(9月末時点)で宮崎県が最も高く63%、最低は沖縄の39%。静岡県はほぼ全国平均並み。市区町村別で80%を超す自治体があり、本県ではマイナカード活用のタクシー割引などに取り組む西伊豆町が74%で最も高い。
 マイナンバー法は2013年5月に成立し、政府は15年10月に番号の通知を開始した。カード取得の意思とは無関係に全国民に番号が割り振られ、確定申告など税金、年金や雇用、医療保険などの社会保障、被災者生活再建支援など災害関連の計3分野の行政手続きで活用が始まった。改正法が成立し、18年から預貯金口座へのマイナンバーの付番などが可能になった。
 法案を閣議決定したのは民主党政権だ。社会保障と税の一体改革を進めるため、関連する情報の一元的な管理により公平な社会保障給付につなげると説明した。民主は当時、消費税増税に伴う低所得者対策として減税と現金給付を組み合わせた「給付金付き税額控除」を打ちだし、正確な所得が分かるマイナンバーが前提になるとした。
 当時の野田佳彦首相が衆院解散を断行し、いったん廃案になったが、自民、公明、民主の3党は法案に大筋合意しており、政権を奪還した安倍晋三首相が成立させた。法の理念と成立過程を踏まえれば、カード取得は任意であり保険証との統合は国民不在の強引な方針転換、と断じるのは無理がある。
 マイナ保険証が使える医療機関が限られ、情報の一元管理にも国民の理解が得られないのなら、それはマイナンバーの恩恵が実感できる政策を十分に打ち出すことができていない政府と与野党の怠慢と言えよう。
 先進諸国の中で、日本は「デジタル後進国」になろうとしている。
 新型コロナ禍で国民支援金を打ちだした韓国政府は昨年9月、2週間で対象者の9割に支給を終えた。一方、日本政府による10万円の特別定額給付金は、開始1カ月時点での給付率は全世帯の約2割。支給の事務費に1400億円超を費やし、オンライン申請が郵便申請より時間を要する失態を演じた。自治体は飲食店や低所得者層などへの支援金給付事務に忙殺された。
 各世帯の生活状況や事業者の経営実態に応じた支援の必要性が叫ばれている。だが、マイナンバーと口座情報のひも付けが完了していない現状では、こうした政策の実施には手間と時間がかかる。
 高齢者や乳幼児のカード申請が難しいとの指摘があり、手続きの簡素化や手厚い申請支援が必要だ。国民がマイナ保険証を所持することで受ける恩恵を政府はより具体的に示してほしい。同時に「困らないからいらない」とする未取得者への支援策も明確化する必要がある。

いい茶0

西伊豆町の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞