大自在(10月17日)「日記と貯蓄」

 書店や文房具店に、来年の手帳やカレンダーとともに日記帳が並ぶ。日記をつけているわけではないが、売り場を眺めるだけでも、引き締まった気分になる。
 日記をつけない人には二つの型があるという。一字も書いたことがない人。つけようとするものの、つけきれない人。作家幸田文(1904~90年)が「日記と貯蓄」に書いていた。
 幸田が思いを巡らせたのは後者。わずかな面倒を重荷に感じ、つい敬遠してしまう。幸田は貯蓄に似ていると感じた。続けたい心はあるが、習慣となるまでが辛抱できない。
 明治安田生命保険のアンケート結果によれば、今年の世帯平均貯蓄額は1408万円。2年ぶりに増加した。「いざという時のため」「将来のため」。新型コロナウイルス禍による収入減。物価高、円安…。今は、辛抱するどころか、不安ばかりが募る。貯蓄を積み増したい思いは同感だ。
 政府の観光振興策「全国旅行支援」が始まった。にぎわいの戻った週末の観光地。一方で、海外への旅行はどうか。ソニー銀行の調べでは、意欲は高まっているが、行くことにためらいを感じている人が85%に上った。海外旅行資金をためている人の約半数が、普段より多く貯蓄に回しているという結果も。どちらも円安を懸念してのことだ。
 幸田の話に戻る。人生の記憶は時がたてば曖昧になるが、古い日記に一行あれば鮮明によみがえる。〈さればこそ日記とは、貯蓄と消費の記録〉。きょうは70年前に日本銀行が制定した「貯蓄の日」。不安だからではなく、使う楽しみを考えたい。

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