大自在(10月15日)御嶽山噴火8年

 山頂剣ケ峰がかすんで見える中で西寄りの風が強く吹き付け、雨は次第に雪混じりに。3千メートル級になると冬の訪れも早い。指先がかじかみ、寒さが身にしみた。献花台の向こうには火口のある地獄谷があり、間断なく水蒸気が上るのが見えた。
 今月初め、長野・岐阜県境にある御嶽山に王滝口から登った。戦後最悪となる死者58人、行方不明者5人の噴火災害から8年。火口から500メートル以内は立ち入り規制され、夏山の緩和期間も王滝頂上から剣ケ峰への道は閉鎖されている。
 噴火後、御嶽山では登山者の保護対策が進められた。犠牲者が多かった剣ケ峰にはコンクリート製と鋼鉄製のシェルターが設置され、周辺の山小屋も噴石が屋根を突き抜けない造りになった。
 登山計画書提出が県条例で義務化され、ヘルメットの携行も呼びかけられている。ハード整備が一段落すれば、今後はソフト対策が重要だ。同時に記憶と教訓の継承も欠かせない。
 今年夏には「やまテラス王滝」と「さとテラス三岳」と呼ばれるビジターセンターがオープンした。御嶽山の自然や文化とともに噴火時の状況も紹介している。王滝口にあるやまテラスで視聴した、被災登山者や山小屋関係者のインタビュー映像からは、何が生死を分けたのかが伝わってきた。
 火山は美しい景観など恩恵とともに災禍をもたらすことも忘れてはならない。御嶽山で起きたことは富士山でも起きる可能性がある。御嶽山は夏山の緩和期間が終了し、山頂への登山道規制が再開された。祈りの山は再び静かな眠りに就いている。

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