大自在(10月12日)芭蕉布

 先月末に終了したNHK朝ドラの「ちむどんどん」。最終回の前日の放送が印象に残っている。主人公暢子が故郷の「やんばる」に開いた食堂で、亡き父の沖縄民謡の師匠が三線[さんしん]を弾き、妹が「芭蕉布[ばしょうふ]」を歌った。
 1965年に発表された「海の青さに空の青」で始まる沖縄の代表曲。ゆったりとした3拍子に、南国の風を感じて心地よい。作詞した吉川安一さんは、布を織っていた母の記憶を縦の糸に、亜熱帯の自然の美しさを横の糸に、言葉を紡いだそうだ。
 芭蕉布は、バショウ科の多年生植物イトバショウからとれる糸で織る。麻よりも軽く張りがあり、さらりとした肌触り。高温多湿の夏の衣料にふさわしい。
 国指定の伝統的工芸品237品目(3月18日時点)のうち、沖縄には染織工芸品が13品ある。中でも芭蕉布は「日本の伝統的織りもの、染めもの」(三宅和歌子著、日東書院)によれば、沖縄でもっとも古い。13世紀ごろから作られていたとされる。1610年には琉球王国の尚寧王が、駿府城で対面した徳川家康に50反を贈ったという話も。
 産地である沖縄本島北部の大宜味村喜如嘉[きじょか]では太平洋戦争後、イトバショウの畑がマラリア対策で米軍に切り倒された。途絶えかけた「喜如嘉の芭蕉布」を地域の人々と復興させたのが人間国宝の平良敏子さんだ。
 平良さんは毎朝、自宅玄関の鏡に自分の心を映した。周囲の期待や支えに応えようと「偽りのない仕事をさせてください」と念じたという。先月、101歳で亡くなった。その願いは伝統とともに守り継がれていく。

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