「福井利佐 生命の力を描く切り絵の世界」展 10月15日から静岡・駿府博物館
富士山の標高2500メートルの森林限界で風雪と闘うカラマツ、小さな体から力強さと美しさを見せる昆虫―。動植物の姿を生き生きと捉えた切り絵アーティスト福井利佐さん(静岡市出身)の「福井利佐 生命の力を描く切り絵の世界」展が15日、静岡市駿河区登呂の駿府博物館で開幕する。福井さんが手がけた福音館書店の「月刊 かがくのとも」2022年11月号「からまつ―ふじさんにもりをつくるき―」の原画を中心に63点を展示する。同書の文を執筆した植生・植物研究家で富士山自然誌研究会会長の菅原久夫さん(長泉町)が、カラマツの特徴と福井さんの切り絵の魅力を語った。
富士山にはカラマツが似合う

「富士山」。1枚の紙と1本の鉛筆があれば、幼児も、画伯も描く。あまりにも普遍性に富みながら、その秀麗な山容を私は他に知らない。
「富士には、月見草がよく似合う」。太宰治の「富嶽百景」の一文はいい。俗な富士に目も向けることなく対峙[たいじ]する月見草が目に浮かぶ。だが、やがて太宰は富士に引かれていく。
富士山と植物に魅せられた私にとって野暮[やぼ]な話だが、月見草は外来種。「富士には、カラマツがよく似合う」のである。
カラマツは中部日本にだけ自生する固有種。溶岩砂礫[されき]原でたくましく生きる。その姿を科学絵本として伝えたいと、福井利佐さんに描いていただいた。共に富士山に赴き、取材を重ねた切り絵の第一印象は、カラマツの生きざまがダイナミックに描かれていたこと。心に熱いものを感じ、「切り絵の力」がうれしかった。
カラマツは、他の植物が生きられない乾燥、低温、貧養な立地に適応して生きる落葉の針葉樹。極端な環境だからこそ、他の植物と競争することなく、100年、200年と生き続ける。水も土壌もない、強風と極低温の荒原に芽生え、耐えに耐えて生き続け、やがて森になる。土をつくり、草木を育み、森を創り、動物たちに心地よいすみかを与える。
しかし、最高峰の急峻[きゅうしゅん]な富士は、雪と砂礫の入り交じった氷塊の崩落を繰り返す。雪崩である。大木であろうが、森であろうがその破壊力は全てを無にする。しかし再び、カラマツは芽生え、森を再生させる。
カラマツの大胆で優しさに満ちたさま、そして自然の偉大さを、福井さんは切り絵によって心豊かに描いている。そんな原画を見ていただきたい。(菅原久夫/植生・植物研究家)
■会期 10月15日~12月11日(月曜休館)
■会場 駿府博物館(静岡市駿河区登呂3の1の1 静岡新聞放送会館別館2階)
<電054(284)3216>
■開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時半まで)
■観覧料 高校生以上800円、中学生以下と障害者手帳提示の方は無料
主催 駿府博物館(公益財団法人静岡新聞・静岡放送文化福祉事業団)、静岡新聞社・静岡放送駿府博物館
福井さんの「ギャラリートーク」
11月12日午前11時、午後2時半。定員は各回30人、事前申し込み必要。詳細は同館のウェブサイトへ。