テーマ : 読み応えあり

御殿場高原ビール(御殿場市) 地元の米が薫る一杯 知名度向上にも貢献【クラフトビール群雄割拠 静岡/山梨/長野/新潟①】

 静岡、山梨、長野、新潟の4県は1990年代後半の第1次「地ビールブーム」の時代から、国内のクラフトビール業界をけん引し続けてきた。現在も個性豊かな醸造所が相次いで誕生し、地域振興を担う存在として期待されている。4県の県紙が、地元のビールと地域の関わりをひもとく新連載。初回は静岡新聞が「御殿場高原ビール」を取り上げる。

仕込み釜に御殿場市産の米粉を投入する醸造担当者=7月下旬、同市のGKB
仕込み釜に御殿場市産の米粉を投入する醸造担当者=7月下旬、同市のGKB
貯蔵タンクから若ビールを取り出し、状態を確認する村石充博工場長=7月下旬、同市のGKB
貯蔵タンクから若ビールを取り出し、状態を確認する村石充博工場長=7月下旬、同市のGKB
御殿場コシヒカリラガー
御殿場コシヒカリラガー
仕込み釜に御殿場市産の米粉を投入する醸造担当者=7月下旬、同市のGKB
貯蔵タンクから若ビールを取り出し、状態を確認する村石充博工場長=7月下旬、同市のGKB
御殿場コシヒカリラガー

 富士山を間近に望む御殿場市。御殿場高原ビールの醸造所には、容量2千リットルの仕込み釜が二つ並ぶ。7月下旬、作業を終えた5代目工場長の村石充博さん(48)は、室内に掲げたカウンターボードの数字を入れ替えた。「創業から6267回目の仕込みですね」。四半世紀超の歴史を刻む木製のボードが鈍い光を放った。
 醸造所の開設は年間最低製造量が大幅に下がった1994年の酒税法改正がきっかけ。食肉メーカー「米久」(沼津市)の創業者・庄司清和氏(1939~2022年)が商機を見いだし、富士山麓の牧場公園を個人資産で買い取って事業を始めた。
 ドイツから醸造士を招いて95年に醸造開始。静岡県初、全国で9番目のクラフトビール醸造所だった。併設のレストランで提供するピルスナー、ヴァイツェンなどドイツスタイルを主体としたビールは、たちまち御殿場市の新しい観光資源となった。
 同市のブランド米「ごてんばこしひかり」を使ったビールの開発は2011年のこと。市が定めた「米の日」の8月11日に仕込んだビールは約1カ月後にお披露目された。
 それまでなかった「地元産米のビール」は、米の消費拡大も狙いだった。試飲会では当時の御殿場高原ビール・鈴木和宏社長が「ついにわが町のビールができた」と高らかに宣言。市民約千人が名称公募に応じ「御殿場コシヒカリラガー」と命名された。
 2千リットルの仕込みに対し、食味値80を超える「厳選特A」の米約60キロを投じる。麦芽と米粉を別々の仕込み釜で糖化させ、一定の時間を経て混ぜ合わせる。2連の仕込み釜が威力を発揮する。醸造担当者は通常のビール以上に、温度と時間の管理に神経をとがらせる。
 地域密着型ビールはブランド米の知名度向上にも貢献した。ごてんばこしひかりを販売するJAふじ伊豆の御殿場営農経済センターの担当者は「地元の米に新しい価値を付与してくれた。ありがたい」と感謝を口にする。

この1杯 まろやかな甘み、口いっぱいに
「御殿場コシヒカリラガー」
 米の風味をまとったまろやかな甘みが口いっぱいに広がり、喉の奥に余韻が残る。ホップの苦みを必要最小限に抑えた設計。GKB(御殿場高原ビールから2020年に社名変更)の藤田常久社長は「ビールが苦手な方が『コシヒカリラガーなら飲める』と言うのを聞いた」と胸を張る。
 00年代中期に試験的に醸造していた「御殿場ホワイト」が原型。徐々に消費を広げ、今年は台湾の量販店向けに缶ビールの輸出を始めた。
     ◇
 GKB 1994年設立。レストランやカフェを併設する。静岡県御殿場市神山719。<電0550(87)5500>

いい茶0

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞