ため池、全国で転落事故 静岡県内も防止対策進む【解説しずおか】

 農業用のため池に転落する死亡事故が全国で相次ぎ、ため池の安全管理や落下を想定した救命策に注目が集まっている。農林水産省によると、2021年度までの10年間で発生した死亡事故は232件。ことしは宮城、青森の両県で子どもが溺れる死亡事故があり、岩手県では草刈り中の男性が転落死した。ため池を巡っては災害対策の一環で管理の明確化が進んでいるが、市民や農業関係者の命を守る観点からも安全対策の強化が必要だ。

フェンスで覆われたため池。危険性の周知に加え、落下時の救命策を含めた安全対策が求められる=9月中旬、掛川市内
フェンスで覆われたため池。危険性の周知に加え、落下時の救命策を含めた安全対策が求められる=9月中旬、掛川市内

 水難救助や事故に関する調査を行う水難学会はため池の危険性を考証した動画の公開や実演を交えた講習会などを通じ、斜面のはい上がりを補助する救命ネットの設置を呼びかけている。動画では大人でもコケや泥に足を取られて池の中に沈み脱出が難しい様子が示され、反響を呼んだ。
 転落防止策は立ち入りを制限するフェンスや看板設置が一般的だが、同学会の斎藤秀俊会長(長岡技術科学大大学院教授)は「一般人も管理者でも、近づけば誰でも同じ危険性がある」として、樹脂製ネットの設置が有効と指摘する。県内で導入事例はまだ少なく、島田市が7月、地元企業と連携して試験的に市内のため池にネットを設置した。
 県内の農業用ため池は631カ所。このうち222カ所が位置する掛川市はホームページや公式LINEを通じて「ため池に近づかないで」との呼びかけを強化している。約6割にフェンスが設置されているが危険性の表示は不十分といい、新たな看板や簡易的なバリケードの設置を予定している。
 市内には憩いの場として親しまれるため池もあるほか、立ち入り禁止でも近くに住宅地がある▽所有者不明-などさまざまなケースがある。同市農林課の担当者は「地元住民が務める『ため池管理人』も少人数で担うことが増え、高齢化を踏まえると管理の課題は多い」と話す。
 決壊時に人的被害の出るおそれがある「防災重点ため池」は18年の西日本豪雨を機に基準が見直され、静岡県は全体の7割近くを占める441カ所を選定している。本年度末までにすべてのため池の調査が完了し、工事は今後本格化する見通しだ。作業者の安全確保について県農地保全課の担当者は「取水施設の操作時などで危険がある。講習会での啓発に加え、落下時にはい上がる設備の導入も検討したい」としている。
 ため池には農業用水の安定供給や洪水調節、生物の生息など多くの機能があり、作業者を守ることは地域の農業を支えることにもつながる。安全対策の着実な実施に加え、地域全体で管理していく仕組みづくりも求められる。

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