有機栽培面積、目標遠く 潮流読み「減農薬」本腰【令和の静岡茶⑪/第3章 広がる海外市場③】 

 「除草剤を使わないので雑草が多いね」。じりじりと日差しが照り付ける残暑の中、静岡市葵区大川地区の茶農家、牧野力雄さん(68)は有機栽培の茶づくりに挑戦中だ。国の補助事業を活用し、市内の製茶問屋と連携。欧州などへの輸出原料として需要を見込む。

茶園を見回る牧野力雄さん。静岡茶の将来を見据え、有機栽培に挑戦する=7月、静岡市葵区
茶園を見回る牧野力雄さん。静岡茶の将来を見据え、有機栽培に挑戦する=7月、静岡市葵区

 蒸した茶を焙炉(ほいろ)の上でほぐし、もんで製品に仕上げる「手もみ」の熟練技術者でもあり、茶業をこよなく愛する。近年の茶価低迷や高齢化で地域の茶農家は減少の一途をたどり、危機感は強い。時代の流れを読み、自前の畑の一部を有機栽培に転換すると決めた。
 地元の茶業を未来に残すための挑戦-。農薬や化学肥料に頼らずに茶樹を育てる。「あと何十年とお茶づくりを続けられるわけではない。有機でおいしいお茶が作れることを示し、参考にしてもらえれば」と意欲を語る。
 「静岡の有機茶生産は他県に後れを取っていると言っても過言ではない」。6月の県茶業会議所通常総会で上川陽子会頭は、茶園面積で有機栽培の占める割合が高い宮崎、鹿児島の例を挙げつつ、本県の現状に危機感を示した。
 県は2025年度までに、有機茶栽培面積を20年比約2倍の400ヘクタールに拡大する目標を掲げる。残留農薬基準が厳しい国々への輸出促進を図る構えだが、到達までの道のりは遠い。
 「有機栽培に限らず、輸出は相手国に合わせた対策が必要」と話すのは、茶栽培から販売を一貫して手掛けるMARUMAGO(島田市)の鈴木優作代表(38)。今後、台湾の残留農薬基準を満たした茶をアジア市場に売り込んでいく。
 香港の企業と関係を築き、20年に深蒸し茶を輸出した。販売拡大を目指そうとした矢先、新型コロナウイルス禍が直撃。現在は最新型の肥料散布機械の導入などスマート農業化を進め、輸出再開に向けて効率化に力を注ぐ。鈴木代表は「農家の視点を生かした商品開発を進め、販路を広げたい」と語る。
 輸出拡大に向けた有機栽培、減肥料・農薬の取り組みは時代の要請であり、後戻りはできないとみられる。折からの肥料高騰を受け、本腰を入れ始める茶業者も増えている。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞