伊豆山の復旧・復興 住民の声を形にして【課題の現場 迫る熱海市長選㊤】
熱海市伊豆山の大規模土石流は、発生から間もなく1年2カ月がたつ。8月下旬、市役所で開かれた被災者らによるワークショップ(WS)で中島秀人さん(53)は訴えた。「伊豆山の人々の声を一つ一つ形にしていくことが大事だ」
土石流の現場は立ち入り禁止で、今も130世帯余りが市内外のみなし仮設住宅などで暮らす。中島さんもその一人。市が8月までに避難世帯に行った意向調査では、回答した124世帯のうち48・4%が現地での生活再建を希望した。移住が41・2%、未定が10・4%だった。一人でも多くの人に伊豆山に帰ってきてほしい-。中島さんの言葉にはそんな思いが込められていた。
市は逢初(あいぞめ)川上流部の安全確保を条件に、来夏ごろに区域規制を解除する方針だ。並行して上下水道などのライフラインの復旧を目指す。ただ、宅地分譲や住宅再建が始まるのは3年先の見通しだ。
市はみなし仮設の家賃や伊豆山に戻る際の引っ越し費用を支援する方針だが、住宅再建を目指す被災者の経済的負担は重い。
住宅へのライフラインの引き込みは自己負担になる可能性が高い。個人財産への税金投入に市民の理解が得られないとする市側の説明に、住宅再建を目指している志村信彦さん(42)は「そもそも土石流が起きなければ必要なかったこと。伊豆山に戻ろうとしている人の立場になってほしい」と訴える。
復興に役立てる支援金は、全国から5億8千万円余りが寄せられている。市は現地の社会基盤整備の原資に充てる考えだが、被災者からはその一部でも生活再建に回してほしいとの声が聞かれる。
市は今月、被災地の土地利用や生活再建支援の方針をまとめた復興まちづくり計画を正式決定する。狭い生活道路の拡幅や避難路整備、コミュニティーの再生などがうたわれ、WSで上がった意見も一部盛り込まれている。だが、実現までの道のりは険しい。
被災地付近の住民で、WSに参加している高橋浩一郎さん(61)は「計画は策定が目的ではない。次期市長には現場を自ら見て、住民の声を常に聞いてほしい」と求める。
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任期満了に伴う熱海市長選と市議補選(欠員1)が4日に告示される。土石流と新型コロナウイルス禍からの再生を目指す同市の現状と課題を探った。