行政区域越えて津波避難 受け入れる意識、醸成へ【防災 連携の力①】

 吉田町に隣接する島田市月坂地区。8月下旬、月坂二丁目町内会の山下雅男会長(75)ら役員が地図を広げ、津波で吉田町に戻れなくなった町民を市指定避難所の初倉南小に受け入れる訓練の手順を最終確認した。「大津波が来たら吉田町の住民が逃げてくるかもしれない」。両市町は4日の県総合防災訓練で津波浸水区域からの広域避難を視野に入れた訓練を初めて行う。

津波避難者の受け入れ訓練の確認をする山下雅男会長(右から2人目)ら役員=8月下旬、島田市
津波避難者の受け入れ訓練の確認をする山下雅男会長(右から2人目)ら役員=8月下旬、島田市

 東日本大震災では、沿岸市町の住民が内陸市町の避難所や宿泊施設に避難した。事前の協力体制がなかったため、「現場は混乱し、調整が難航した」(宮城県復興危機管理総務課)。
 島田市と吉田町を含む5市2町は2012年、「災害時の相互応援に関する協定書」を締結。資機材の提供や被災児童・生徒の一時受け入れなど、広域連携の枠組みはあるが、協定を運用する際の具体的な検討や連携した訓練の実施には至っていない。
 吉田町は防潮堤などの整備が進んでいるが、県第4次被害想定で津波による死者が人口の6分の1に当たる約4500人と推計される。町防災課の柳原真也課長は「使える避難所から開設していくが、島田市に受け入れをお願いする場合も出てくるだろう」と話す。
 災害時の広域避難は原子力災害や富士山噴火で県や市町が計画を策定している。県危機対策課によると、県内で地震や津波による広域避難の検討や訓練が行われた例は少ないとみられる。南海トラフ地震では県内全域が激甚災害に見舞われ、そもそも収容できる施設が確保できるかどうかを含めて課題は多い。
 静岡大防災総合センターの岩田孝仁特任教授は行政区域内での対策が原則としつつ、「支援できる部分で連携を進めるのはいい流れ」とする。「避難が中長期に及ぶ場合、高齢者施設などの避難の在り方も考慮してほしい」と期待する。
 ただ、受け入れる側は不安は大きい。月坂二丁目町内会の曽根能治自主防災委員長(71)は「被災状況によって受け入れ可能な人数や期間も変わってくる」と懸念し、「さまざまな想定の訓練が必要になる」と見据える。一時的であっても、地域外の住民を避難所で受け入れる可能性があるとの意識は乏しい。市危機管理課の杉本正晴課長は今回の訓練を住民の意識醸成への一歩と捉える。「住民に同じ認識があってこそ、具体的な計画の検討など次のステップに入れる」と強調した。
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 静岡県総合防災訓練が3年ぶりに、島田、牧之原、吉田、川根本の4市町で開かれる。新型コロナウイルス感染拡大による2年間の“訓練空白期間”をどう埋めるのか。県内の他の地域にも通じる課題を探る。

 <メモ>東日本大震災では、沿岸部の指定避難所が津波で被災し、使用可能な避難所も住民であふれかえった。宮城県によると、南三陸町や石巻市など沿岸部の住民が内陸部の避難所に身を寄せたり、沿岸自治体が内陸の公共施設を借りて一時的に避難所を開設したりした。岩手県では内陸部のホテルへの中長期避難や仮設住宅を内陸の市町に建設した事例があった。

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