コロナ全数把握見直し 政策判断 地方への丸投げだ【特別評論】

 こんな権限移譲はごめんだと憤る知事が増えてくるだろう。「知事の判断で」は見せかけの地方重視で、政策判断の丸投げだと指摘したい。岸田文雄首相は、全数の報告を指示してきた新型コロナウイルス感染者の「発生届」を知事の判断で重症化リスクの高い患者に限定できるよう、省令を改正する方針を表明した。
 国難のコロナ禍で、全患者の情報が政府の政策決定に必要だったことに異論はない。一方、オミクロン株が主流となり、医療機関は軽症、無症状者の対応に忙殺されている。「救える命も救えなくなる」というのが現場の声だ。
 問題の核心は、感染症法が2類相当で規定する厳格な隔離対応と、現下の医療現場の診療実態が乖離(かいり)していることにある。
 全感染者のデータは保健機関が隔離や療養を判断する基礎資料のはずだ。感染拡大の阻止は今後、誰が責任を負うのか。コロナ患者も地域の診療所で診ることになるのか。全数把握を撤回する前に、岸田首相はまず法適用の見直しと暮らしを立て直す工程を明確化するべきだった。対処薬の普及策を含め、庶民の関心事に無頓着すぎる。猛省を求めたい。
 国はこれまで全感染者の氏名や生年月日、市区町村、電話番号などの報告を求め、重症者らはさらに発症日、ワクチン接種回数、重症化のリスク要因、名前のふりがな、番地以下の詳細な住所の記載まで必須としてきた。爆発的感染で医師らは深夜まで入力作業に追われている。
 全国の知事の賛否が割れたのは当然だ。神奈川県の黒岩祐治知事は「高く評価したい」と歓迎。島根県の丸山達也知事は感染拡大の阻止に必要だとして全数把握の継続を表明した。東京都や大阪府は制度の詳細が不明だとして対応を保留した。川勝平太知事は「詳細が伝わってきていない」と評価を避けた。
 ここは、自治体がコロナ対応で積み重ねてきた知見を踏まえ、地域医療の立て直しを先導したい。
 川勝知事は先に、医療逼迫(ひっぱく)の回避で県内の全病院にコロナ患者を受け入れるよう求めた。応じる施設に対策経費などを助成する。感染症法に基づき、協力要請に従うよう勧告権限まで認めた強力な措置だ。県内170病院のうち、現在コロナ患者の受け入れは51病院にとどまっている。
 できるだけ多くの病院が参画すべきだ。それには、一般診療に支障が生じないよう丁寧な支援が欠かせない。全ての市長、町長は地域住民が利用する病院を訪ね、課題を話し合い、医療体制を再構築する決意で汗をかくべきだ。病院の高度治療機能と地域の診療所が役割を分担する病診連携や、かかりつけ医の機能強化も焦点になろう。
 地域医療の強化はコロナ対応にとどまらず、保健や介護、子育てなど暮らしの安全安心に直結する。防災面の危機管理機能を高めることにもつながる。
 県と市町は連携を強め、コロナ禍克服の「静岡県モデル」を構築する決意で取り組んでもらいたい。

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