生ゼリー「手間暇を惜しまず、感動を届ける」 フルーツアーティスト杉山清さん㊦【五郎丸歩が学ぶ~ビジネスの流儀~⑰】

 ラグビー球団の社長を目指す日本ラグビー界のレジェンド、五郎丸歩がさまざまな経営トップと対談する「五郎丸歩が学ぶ〜ビジネスの流儀〜」。ゲストは前回に続き、大ヒット商品の開発で経営の危機から奇跡の成長を遂げたフルーツ店の店主杉山清さん。今回は、長年愛される商品作りの流儀を学んでいきます。(進行/SBSアナウンサー 重長智子)


商いをする者が飽きてはいけない

 ギフト専門の高級フルーツ店に転換した杉山さん。ギフトラッピングコーディネーターの資格を生かした包装や新鮮なフルーツを使ったウェルカムドリンクのサービス、さらに徹底した品質管理によって、地道にお客さんの信頼をつかんでいきました。そして2005年、ついに大ヒット商品が誕生します。それが新鮮なフルーツを美しく彩った生ゼリーです。その美味しさと革新的なビジュアルから、すぐさま看板商品に。後にブームとなる「生」というネーミングも世間の注目を集め、お店は大繁盛。イベントに出店すれば毎回完売になる爆発的ヒット商品となりました。

 杉山さん カットフルーツは百貨店でもスーパーでも置いてあります。「これをカラフルにして、ゼリーを注いだらもっと面白いんじゃないか」と、まず作品を思いつきました。最初は「もう清さん、どうせ1週間ぐらいで飽きるだろう」とか「これは残り物のフルーツにゼラチン流し込んだだけだ」とか、あれこれやゆされましたが、今思えばその声が私を奮起させたところがありました。私たち商いをしている者が、飽きてはいけない。そうしている間に、あれよあれよと口コミで広がっていきました。

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 美味しいフルーツを手軽に食べてもらいたい。フルーツ店ならではの思いから始めた生ゼリーの製造過程に、こだわりが詰まっています。ゼリーには加工用のフルーツを使うのが業界のセオリーですが、杉山フルーツが使っているのはギフト用と同じ高品質のフルーツ。そして、フルーツの他に欠かせない材料が、企業秘密の配合で作ったゼラチンです。絶妙な温度管理のもと、注ぎ入れ、氷水で冷やしていきます。


 杉山さん 家庭ですと、メロンは皮のギリギリのところまで取りますけれど、皮の手前に筋が入っていて「えぐさ」が出ちゃうんですね。ちょっともったいないですけど、少し残しています。際どい境界線があり、カットする上で知識がないと美味しさが半減しちゃうんです。ゼラチンは素材を生かすために無色透明、無味無臭という点が特徴。フルーツの持ち味を最大限に活かせます。冷めると固まり、熱ければフルーツが溶けてしまう。程よい温度があるわけです。上下に赤、その中に黄色、それからグリーンとカラーコーディネートして入れていきます。どの色が欠けてもバランスが崩れるので、色のコントロールって一番大事。そして本当に温度との戦いです。作業はすべてが手間ですが、手間ひまをかけないとお客さんに感動は伝わらない。そこに価値があるので惜しんではいけないんです。

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 五郎丸さん 1日700〜800個作ってらっしゃるということは、四六時中作っているってことですよね。そして、こだわりがすごい。この製造方法だったら手作業でないと作るのは難しいですね。

 杉山さん 自分がどこまでできるかというチャレンジ精神と言いますか、酷使はしていますが、苦にはなりません。素材の吟味においては機械では果物の痛み、傷はわかりません。糖度とかは測れるんですけど痛みは見抜けないので機械化ができない。人間の手作業でしかできないんですね。

 五郎丸さん クラウンメロンは皮ぎりぎりまで食べるというのが家庭では当たり前かと思いますが、本当に美味しい部分だけを使うのですね。

 杉山さん もったいないからといって皮近くまで使うと、今度はお客さんにとっては苦いとか渋いとか硬いとかになります。果物の使い方、食べ頃の判断は、私たちの目利きの部分です。スポーツで言えば采配でしょうか。同じルールでやっていても、采配の違いによって、感動の仕方も違ってくる。そして、「もったいない」が過度に先行すると問題につながりかねない。経営者はそこを常に避け、常に気を付けなければいけない部分ですよね。

 

自分自身をブランディング

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 自らを「フルーツアーティスト」と名乗る杉山さん。ベジタブル&フルーツマイスターやギフトラッピングコーディネーターなどの資格を持つ店主ならではのネーミングです。トレードマークの白のコックコートもフルーツアーティストを印象付けるための一つのブランディング。そのキャラクターに加え、確かな目利きと技術を備え持っているからこそ「フルーツアーティスト杉山清の生ゼリー」に価値が生まれているのです。

 杉山さん ゼリーもフルーツの盛り合わせもアートと捉えています。ラッピングもアートということで、自分はフルーツのアーティストだと。要は目立ちたかったんです(笑)。最初は「杉山さんの裏にはブランディングがあるんだ」と言われてピンと来なかったんですけど、ネーミングはブランディングの側面ですね。

 五郎丸さん フルーツアーティスト、興味を引くネーミングですね。

 杉山さん 「これは杉山清さんの手作り商品なんだ」という認知がお客さんの価値観であり、商品の独自性が価値を生み出しました。手間暇かかってるんだな、杉山さんのメロンは選び抜かれたメロンだからこの値段なんだねと納得されて、お客さんの購入につながっている。独自色が強くて良かったなって感じですね。

 重長さん 独自性というワードが出てきました。五郎丸さん、静岡ブルーレヴズの独自性はどんなところでしょうか。

 五郎丸さん ラグビー界では唯一、自前のスタジアムを持っていることでしょうか。ヤマハスタジアムに来ていただければ分かると思いますが、非常に臨場感があります。都心ではなかなか出せません。自分たちのスタジアムなのでいかようにもできるので、そういった面では非常にラグビー界をリードしていると思います。ラグビーは、会場に行くと、人と人がぶつかり合ったりする音とかがあり、映像で見てる以上に臨場感があり、非日常空間があります。ぜひ来場していただきたいですね。

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身の丈に合った経営を

 五郎丸さん お客さんに一番受けたポイントは何だと思いますか。

 杉山さん 生ゼリーの作品の中では食味食感ですよね。これはもう類似品から模倣品まで、(私たちが作り始めてから)18年の間に、ごまんと皆さん見かけたと思うんです。しかし、他の商品と決定的に違うのはまず食味食感。鮮度が違う、フルーツが違う、ベースが違う。これは、私がというより、お客さんが答えを出してくれたんですね。

 重長さん 生ゼリーの発売後、お店は大繁盛しました。出張販売では行列が絶えないなど、全国的に話題となった杉山フルーツですが、その後の経営はどうしていったんでしょうか?

 杉山さん 百貨店や量販店、ありとあらゆるところから声が掛かりました。「こんな片田舎に大企業の社長さんとか部長さんとかが会いに来るのか」というぐらい。ですが、私の中には本当に欲がなく「大量生産の大量販売は、市場崩壊」という変な方程式が頭の中にありました。「隣のコンビニから杉山さんの買ってくるか。今日も明日もあるから全然大丈夫だよ」というように、プレミアム性が消失した時に、飽きが来るのかなっていう思いがありました。ローカルのこんな小さなお店でいくら踏ん張って作ったって、全国には行き渡りません。だからこそ、今も買い求めてくれるお客さん、リピーターがいるのだと考えています。売り上げ至上主義で言えば大量生産、メーカーになるしかないですが、私の経営方針の一つが身の丈。商品の身の丈、材料の身の丈の中でやりなさいよって、これ、神のお告げでございます(笑)

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損得よりも善悪

 杉山さん 明日2,000個、3,000個だせとなれば現場の人数が増え、コストも上がります。仕事の雑さにつながりますね。使ってはいけない商材まで使わなければ回らないことにもなりかねない。いくらちやほやされて取り上げられても、一度負のイメージが付くと、いっぺんに根こそぎ腰砕けになります。私たちの農作物、生産物は機械では作れない、工場生産できない生(な)り物なんです。生り物は無限じゃなく、有限。商売にしろ、取引にしろどうしても、「ここは損するか得するか」で判断しがちじゃないですか。でも、私の場合は「これは良いことなのか悪いことなのか」と、善悪で物事を進めて来たんです。損得だったら、やり方はいろいろありますが、私は後ろめたいようなことをしてまでは金儲けしたくない。だからまず、善悪を前提に動きます。

 五郎丸さん 「損得より善悪」名言ですね。かっこいいなぁ。

 利益を求めた大量生産には踏み切らず、身の丈に合った経営をしてきた。そのことが商品に独自性という価値を生み、ロングセラーへと繋がりました。大型店の集客に頼ったどこにでもあるフルーツ店を、ここにしかない、唯一無二のフルーツ店へと変えた男が貫いてきた仕事の流儀とは。

 杉山さん 私は常々、景気不景気は経営者次第と言っています。世の中のせいも多少あるかもしれないけど、「コロナ禍でもあんなに売れてんのか」っていう店もある。売れる売れないは実は経営者次第ってことですね。

 五郎丸さん ビジネスとなると大体、会社を大きくしていかに売り上げを伸ばしていくかをイメージします。でも、自分が目指したい領域で、低空飛行でもいいから長続きし、皆さんに愛される場所を提供したいという杉山さんの思いに非常に共感しました。われわれも子会社化して1年目だったので、資金力とか、やはりいろいろな欲が湧いてくるんです。でも、その欲は持ちながらもファンをしっかりと大事にし、次のステップを踏んで階段を一つずつ登っていくことが大事だと感じましたね。そして何より次の開幕の時に、杉山さんのフルーツがあれば、お客さんの長蛇の列ができます。ぜひお願いします。

 杉山さん 実際にいろんなスタジアムから、ゼリーの販売のオファーが来てるんですよ。それも集客につながるとすればやぶさかじゃないし、オーダーが来ることはうれしいです。

 五郎丸さん ここカットしちゃだめですよ(笑)。


 次回は、ハイクラス転職サイト「ビズリーチ」の創業者で「ビジョナル」の南壮一郎社長が登場します。ビッグドリームを叶えるため、浜松からアメリカの名門大学に進学し、証券会社を経て、プロ野球東北楽天ゴールデンイーグルスの創業メンバーに。その後、ビズリーチを創業すると、今では登録者数159万人以上、2万社以上の企業が利用。ビッグビジネスへと成長させた男がビジネスの流儀を語ります。

 杉山清(すぎやま・きよし)さん 東京都内のホテルで料理人として働いたのち、1982年、妻の実家である富士市・吉原商店街の果物店の3代目に。商店街の百貨店や大型スーパーが撤退したことを受けてギフト専門高級果物店に転換し、2005年に「フルーツアーティスト杉山清の生ゼリー」を開発した。日本ベジタブル&フルーツマイスター、全日本ギフト協会公認ラッピングコーディネーターなどの資格を持つ。茨城県生まれ、栃木県育ち。

 五郎丸歩(ごろうまる・あゆむ)さん 元ラグビー日本代表選手。1986年生まれ、福岡県出身。ヤマハ発動機ジュビロの主力選手としてチームを長年牽引。強豪南アフリカから大金星を上げた2015年のワールドカップで活躍し、ラグビー人気の火付け役となった。フランス1部リーグでもプレーし、21年シーズンをもって現役を引退。現在はラグビーリーグワン1部「静岡ブルーレヴズ」のクラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)としてファンづくりに奔走する。

 

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