直木賞作家の今村翔吾さん 感謝伝える全国行脚

 直木賞作家の今村翔吾さんが「まつり旅」と名付け、全国の書店や学校などを巡っている。7月末は静岡県に3日間滞在し、大型書店や個性的な書店の訪問、自身初の受賞文学賞となった伊豆文学賞を主催する伊豆文学フェスティバル実行委員会の講演会にも臨んだ。

「まつり旅」と名付けて全都道府県を行脚する直木賞作家の今村翔吾さん=7月末、浜松市内
「まつり旅」と名付けて全都道府県を行脚する直木賞作家の今村翔吾さん=7月末、浜松市内

 

思いがけない言葉


 家業のダンス教室で講師を務めた異色の経歴の持ち主。「プロフィール欄は受賞歴を削ってでも、その経歴が書き込まれる」と苦笑する。しかし、作家への道は、教え子との逸話が大きく影響した。
 家出を繰り返す女子高生の教え子がいた。5度目となった家出の夜、初めて今村さんからの電話に心の内を語り始めた。
 調理師になる夢があったが、母は亡父に代わって家計を支え、妹を私学に通わせてもいた。これ以上、負担を掛けたくないという。
 「夢を諦めるな」。ここぞとばかりに話しかけると、返って来た言葉は「翔吾君も夢を諦めてるくせに」。絶句した。「いつか小説家になる」「作品が映像化されたら配役は誰がいいかな」。教え子らと雑談はしてきたが、小説など1行も書いていなかった。
 

30歳の誓い


 小学5年生で池波正太郎の「真田太平記」と出合った。中高時代は歴史・時代小説を年間100冊以上読破した。「歴史ものや時代ものの執筆には経験が必要。40~50歳で作家デビューできればいいかな」。漠然と考えていた。
 「諦めてるくせに」と言われた数日後、父に伝えた。「講師を辞めて小説家になる」。直木賞を取ると、送別会で誓った。30歳だった。
 今年1月、石工集団の若者を描いた「塞王[さいおう]の楯[たて]」で直木賞に輝いた。3度目の候補。人との出会いに感謝した受賞会見で、夢をくれた出版界を盛り上げる行脚を宣言した。
 

「諦めない」こと


 移動のワゴン車でも執筆を続ける118泊119日。5月から約290カ所を一気に訪ねている。9月24日予定のゴールは、デビュー作がシリーズ化された「羽州ぼろ鳶[とび]組」ゆかりの山形県新庄市だ。
 今川氏真を取り上げた「蹴れ、彦五郎」で2015年度伊豆文学賞の小説・随筆・紀行文部門最優秀賞。その後、著作の数々は、角川春樹小説賞、吉川英治文学新人賞、山田風太郎賞などを受賞した。
 作家としての原点は「諦めない」こと。交流サイト(SNS)や動画投稿サイトで各地の触れあいを発信し、道中38歳となった人気の多作家。「いろいろなタイプの作品をいろいろな角度から熱く届けていきたい」と約束する。
 (編集委員・掛井一也)

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