御城印、歴史ブーム背景にファン魅了 誘客活用、静岡県内で動き本格化【NEXTラボ】

 近年の歴史ブームを背景に、全国の城を観光する際などに記念品として購入する人が増えている御城印。1990年代に松本城(長野県)で始まりコアなファンを中心に支持されてきた。静岡県内でも地域の歴史を再発見し、誘客につなげる起爆剤として活用する動きが本格化している。

沼津西高芸術家書道専攻の生徒が作製した御城印を掲げる音渕胡々さん(中央)
沼津西高芸術家書道専攻の生徒が作製した御城印を掲げる音渕胡々さん(中央)
タブレット端末で、御城印の情報を集めたサイトを紹介する県観光協会の菅原志津子さん=静岡市駿河区
タブレット端末で、御城印の情報を集めたサイトを紹介する県観光協会の菅原志津子さん=静岡市駿河区
御城印がある県内の主な城跡
御城印がある県内の主な城跡
沼津西高芸術家書道専攻の生徒が作製した御城印を掲げる音渕胡々さん(中央)
タブレット端末で、御城印の情報を集めたサイトを紹介する県観光協会の菅原志津子さん=静岡市駿河区
御城印がある県内の主な城跡

 

沼津西高生が題字揮毫 地元観光協とコラボ

 

 沼津市ではプロを志す沼津西高芸術科書道専攻の生徒が題字を揮毫[きごう]し、町おこしに参画する「御城印プロジェクト」が進んでいる。
 2021年度に第1弾の沼津四大城(興国寺城、沼津城、三枚橋城、長浜城)と、第2弾の沼津狼煙[のろし]台の各バージョンを作製した。2年目の本年度は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に登場する沼津ゆかりの人物にちなんだ第3弾に取り組んだ。
 昨今の史跡巡りブームを追い風に、歴史に関心を持ってもらおうと、NPO法人沼津観光協会が企画し、同高にコラボレーションを呼び掛けた。
 第1弾と第2弾の題字は21年度の3年生籾山栞さん、伊藤帆南さん、高橋世理加さんが担当。本年度の3年生音渕胡々さんと大越ひなのさんが手掛けた第3弾は、市内の大泉寺にゆかりがある源義朝の七男阿野全成[あのぜんじょう]や、関係する歴史上の人物計4人をモチーフにした。
 プロを養成する書道専攻だけに、その仕事ぶりは本格的だ。第3弾の4種の題字は造像記[ぞうぞうき]や顔真卿[がんしんけい]、隷書と呼ばれる、御城印としては珍しい書体で書かれている。
 指導する池谷公司教諭は「あえて多様なスタイルを取り入れ、質の高い作品を目指した。単なる体験にとどまらず、プロダクト(商品)になるからこそ、価値がある」と活動の意義を語る。
 6月まで書道部長を務めた音渕さんは「得意な書のスタイルでまちの活性化に貢献できることがうれしい」と笑みがはじける。
 御城印は沼津観光協会などで販売している。問い合わせは同協会<電055(964)1300>へ。
 

「現地に行き、城を見て」 日本城郭協会理事 加藤理文さん(袋井)に聞く

 御城印の魅力とは何か-。静岡県内外の城に精通し、自身も長年の御城印コレクターという日本城郭協会理事の加藤理文さん(袋井市)に聞いた。
 

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御城印の魅力を語る日本城郭協会理事の加藤理文さん=袋井市

 -御城印の歴史は。
 「30年ぐらい前、最初に作ったのは長野県の松本城だった。その後、城巡りがブームとなり登城記念として、2010年代後半頃から全国に広まったが、初期は全国で50種類足らずだった。それがいつの間にか数え切れないぐらい増えた」
 -御城印にはどんな意義があるのか。
 「当初は、城跡の保存会などが収益を城の補修や草刈りの費用などに充てようと作製していた。城へ行った記念に御城印を購入すると、城のためにも役立つ、まさに一石二鳥だった。昨今、珍しい限定御城印が転売されるケースなど悲しい事例も耳にする。現地に足を運んで、城を見た人だけが、自分の記念として購入するという原点を見失ってはいけないと強く感じる」
 -御城印に関して心掛けていることは。
 「100種類以上持っているが、全て現地に行って、城の保存に役立ててほしいとの願いを込めて、記念として買ったものだ。1枚しか買わないし、郵送で取り寄せたり、人に頼まれて買ったりはしないことにしている」
 -今後の期待は。
 「御城印をきっかけとして、城を訪ねる人や興味を持つ人が増えてほしい。県内は徳川家の三つ葉葵[あおい]など有名な家紋が付いた御城印や工夫を凝らした限定品も多いので、楽しみながら集められるうってつけの県の一つだ」
 

諏訪原城の別名 牧野城、24日限定 島田市が初販売 徳川家康が攻め落とした日

 

 武田勝頼が築城した諏訪原城(島田市)が1575年に徳川家康によって攻め落とされたとされる24日、市は1日限定で、諏訪原城の徳川時代の名称である「牧野城」の御城印を販売する。今年が初めて。

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1日限定で販売される牧野城の御城印=島田市  

 市によると、城が牧野城と呼ばれた期間は廃城までの約10年間で諏訪原城と呼ばれた期間よりも長い。ただ、国の史跡に「諏訪原城跡」として指定されていることや、諏訪原城と呼称する文献が多いことから、牧野城の名はあまり知られていない。2023年大河ドラマ「どうする家康」の放送を前に、徳川時代の歴史に光を当てようと販売を決めた。
 市博物館で諏訪原城の調査や整備を総括する萩原佳保里さんによると、諏訪原城は、一般的には武田氏の築城術の特徴とされる「丸馬出[まるうまだし]」の構造を持つ城として名高いが、近年の調査で同城の丸馬出は徳川時代に造られたことが判明。イメージが塗り替わっているという。
 牧野城の御城印は400円。限定300枚で1人2枚まで。諏訪原城ビジターセンター(同市菊川)で午前10~午後4時販売する。
 

静岡県内スポットはこちら 県観光協サイトで紹介

 

 県観光協会は、県観光公式サイト「ハローナビしずおか」内で、御城印を購入できる県内の主な城跡をまとめ、公開している。
 県内を伊豆、中部、西部の3エリアに分け、15の城を紹介した。購入できる窓口の情報や歴史好きの職員による案内に地図や写真を添えた。
 

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  御城印がある県内の主な城跡

 駿府城や浜松城のほか、4重の円を描いたような堀に囲まれた珍しい縄張で知られる田中城(藤枝市)、掛川城と並んで掛川三城と称される高天神城、横須賀城(いずれも掛川市)、戦国時代末期に小田原に本城を置いた北条氏が築城した山中城(三島市)などの情報を掲載している。
 企画・制作を担当した同協会職員の菅原志津子さんは「城跡に赴くと、武将が天下統一に向けて戦った風景が目に浮かぶ。子どもたちも現地に足を運べば、勉強が楽しくなるのでは」と期待する。

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