沼津市歴史民俗資料館「オオアミ」 製作年不明【美と快と-収蔵品物語㉞】

 戦国期から大正時代中期ごろまで、マグロなどの大型回遊魚の大群が来ていた沼津市の内浦湾、江浦湾沿岸。この地域では数種類の帯状の網を順に張り回し、魚群を囲い込んで捕らえる「建切[たちきり]網漁」が1950年代中ごろまで行われていた。同市歴史民俗資料館が収蔵する、建切網漁で使われていた国指定重要有形民俗文化財の「オオアミ」には、漁師のさまざまな知恵と工夫が詰まっている。

約9・2メートル×約2・6メートル (網目の大きさが分かるように、80キロの本マグロの図と一緒に展示している。)
約9・2メートル×約2・6メートル (網目の大きさが分かるように、80キロの本マグロの図と一緒に展示している。)

 

光沢の「壁」 魚を威嚇

 内浦湾と江浦湾の海底は岩礁が多く、一般的な引き網漁ができなかったため、袋網のない帯状の網を用いた。漁場が湾で囲い込む範囲が狭く、数種類の網を数回にわたって張り回すという特徴的な漁法を行うことができた。
 オオアミは一番初めに張り回し、湾の入り口を岸の一端から弓状にふさぐ。網の長さは地域や時代によって異なるが、同市内浦長浜では全長450メートルほどだった。網は引く側の端から岸側の端にかけて、網目が段階的に小さくなる構造。大きな網目で軽くすることにより、遊泳速度が速いマグロなどに合わせて素早く張り回せた。網と魚群との距離が近くなる岸側は小さな網目で魚を逃がさないようにした。
 ミゴと呼ばれる稲わらの芯の先端部分だけをよって作る縄「ミゴナ」で作られるオオアミは光沢があり、海中の魚には壁のような障害物に見える。同館の近年の聞き取り調査によると、網の目の一辺は長いところで1・2メートルほどあり、マグロなどが通り抜けられる大きさだったが、魚をおびえさせ、進路を変えさせることができた。
 開館当初、同館は記録が残る建切網漁の道具の収集に努めた。現在はオオアミの一部分を3点所蔵するが、そのうち2点は同市内浦長浜の個人宅にあった物を1979年に譲り受けた。漁師が製作したとみられている。
 上野尚美学芸員は「建切網漁は魚やミゴナの性質をよく理解していたからこそできた。わらは腐りやすく、オオアミはとても貴重な資料。漁師の生きざま、技術、苦労を展示で分かりやすく伝えていく」と話す。
 (文/鈴木侑季、写真〈網、資料館外観〉/東部総局・山川侑哉)

 

魚群知らせる拡声器 

  photo02 「ローフー」 製作年不明 長さ296センチ

  スピード勝負の建切網漁では、山腹などにある魚見小屋でベテラン漁師が見張りをし、魚群を見つけるとすぐに岸辺の網小屋にいる漁師に知らせた。その時に使用したのが竹製の拡声器「ローフー」。オオアミの支度や、集落に複数ある魚見に登ることを指示した。網の張り回し方も伝えていたという。
 同館が収蔵する国指定重要有形民俗文化財のローフーは、モウソウチクで作られている。先端部分は竹を割いて太い針金で広げ、和紙が貼られている。同館学芸員が1975年、沼津市内浦長浜に残っていた魚見小屋で発見した。
 

沼津市歴史民俗資料館

 沼津市下香貫島郷2802の1。沼津御用邸記念公園内に1974年、開館した。
 漁労用具や農耕用具など同市内を中心とした歴史、民俗資料を収蔵する。収蔵品2539点が2010年3月、「沼津内浦・静浦及び周辺地域の漁撈[ぎょろう]用具」として国の重要有形民俗文化財に指定された。掲載した2点は常設展示している。

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