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静岡県公開「3次元点群データ」 ビジネス拡張、民間活用事例増

 静岡県がインターネット上で公開している3次元点群データが、新しいサービスやビジネスを生み出す場面で存在感を高めている。県内全域の地形や構造物のデータを誰でも入手できる利点から、当初想定した災害対応やインフラ工事にとどまらず、仮想空間や観光、ゲームなど幅広い分野で貢献。個人や企業の活用事例も増えつつあり、技術革新にも期待がかかる。

3次元点群データで表した韮山反射炉(県提供)
3次元点群データで表した韮山反射炉(県提供)
ゴーグルをつけて富士登山を疑似体験する関係者=5月、県庁
ゴーグルをつけて富士登山を疑似体験する関係者=5月、県庁
3次元点群データで表した韮山反射炉(県提供)
ゴーグルをつけて富士登山を疑似体験する関係者=5月、県庁

 都内の企業で空間情報技術などを手掛ける藤原龍さん(41)は3月、点群データを基に実在と同じ1分の1スケールの富士山VR(仮想現実)を作成した。ゴーグル越しにごつごつとした山肌が現れ、登山やお鉢巡りを疑似体験できる。実際には立ち入れない火口に足を踏み入れることも可能だ。専用アプリから体験でき、利用者は5千人を突破。2時間かけて5合目から山頂まで登り、ユーチューブでライブ配信した人もいる。
 富士山に魅了され、4度の登頂経験があるという藤原さん。「VRをきっかけに本物の富士山にも足を運んでもらえれば」と話す。
 釣り愛好家向けアプリを提供するアジア航測(川崎市)は県の点群データを活用し、熱海市初島や伊豆半島エリアの海底地形マップを公開した。担当者は「自社計測のデータと遜色ない。利用者にも好評で、多くの人が現地に訪れている」と評価する。
 県は2019年度から、県内全域の地形情報の収集を本格的に開始。災害への備えからデータを蓄積し、誰でも使えるオープンデータとして全国に先駆けて公開してきた。自動運転の実証実験に必要な地図作成や文化財の保護、バーチャル観光などの分野でも活用が広がっている。レーシングゲームを開発する人もいるという。
 県建設政策課未来まちづくり室の杉本直也課長代理は「将来的にはドローンを使った宅配や空飛ぶ車など、さまざまな可能性を秘めている」と語り、民間ならではの斬新な発想に期待を寄せた。

 ■土石流盛り土分析で注目
 3次元点群データが注目を集めたのは昨年7月に熱海市で発生した大規模土石流だ。発生直後に産学官の有志がチームを結成。公開データを駆使して現場の地形を分析し、被害拡大の原因となった盛り土の存在を突き止めた。結果はすぐに難波喬司副知事(現県理事)にも伝えられたという。
 本県は南海トラフ巨大地震など自然災害のリスクと隣り合わせにあり、データは被災状況の早期把握や津波浸水シミュレーションに活用できる。県建設政策課は「明日起こるかもしれない災害に備え、点群データを蓄積しておくことは重要」と指摘する。

 <メモ>3次元点群データ 軽飛行機やドローンから地表面にレーザーを照射し、膨大な点の集まりとして3次元で表現する。県は一部の山間地を除いた県内全域のデータを取得済みで、仮想空間に県を丸ごと再現してまちづくりなどに生かす「バーチャル静岡」の取り組みを推進している。

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