外出時「ヘルプマーク」をつけようか迷っています【NEXT特捜隊】

ヘルプマーク(左)と自治体ごとに作成された「ヘルプカード」。必要な援助や緊急連絡先を書き込む
ヘルプマーク(左)と自治体ごとに作成された「ヘルプカード」。必要な援助や緊急連絡先を書き込む

 読者の疑問や困り事に応える静岡新聞社「NEXT特捜隊」に、静岡県中部の30代女性から依頼が届いた。女性はてんかんの発作に備え、ヘルプマークをつけたいと考えている。ただ「嫌がらせを受けないか。そもそも知られているのか」という心配もあるという。「新聞を通して、ヘルプマークへの理解を広げてほしい」とも。ヘルプマークの利用者に体験談を聞き、ヘルプマークを見掛けた時に求められる行動について調べた。

 

見えにくい障害「配慮必要」 見守り、理解を

 

 赤地に白い十字とハートマークを組み合わせた「ヘルプマーク」。外見からは分かりにくい障害などがある人が周囲から援助を受けやすいように、東京都が2012年に作成した。17年には日本産業規格(JIS)の案内用図記号に追加され、全国共通マークとして普及が進む。
 ヘルプマークはキーホルダーのようにかばんや衣服につける。利用者は、義足や人工関節を使用する人、心臓や腎臓など体の内部に障害がある人、発達障害がある人、妊娠初期の人など幅広い。県は18年にヘルプマークの配布を開始。全市町の福祉担当課や保健所、県立総合病院などで無料で受け取れる。申請の手続きはないが、年代などを聞くアンケートに答える。

 

 ヘルプマークには付属のシールがあり、必要な援助の内容を書き込み、マークの裏側に張ることができる。利用者の中には、より詳細な情報や緊急連絡先を書き込める「ヘルプカード」を併用し、携行する人もいる。ヘルプカードは県内の各市町がオリジナル版を作成している。県によると、22年2月時点で16市町(静岡、浜松、沼津、熱海、三島、伊東、富士、御殿場、裾野、湖西、伊豆、伊豆の国、函南、清水、長泉、小山)が作成。窓口で配布するほか、ウェブサイトからダウンロードできる自治体もある。
 ヘルプマークをつけた人を見掛けたら、どのように行動すればいいのか-。ヘルプマークの普及に取り組む全国心臓病の子どもを守る会県支部の大石裕香さんは「必要な援助や配慮は人それぞれ違う。まずは様子を見て、困っていそうであれば声を掛け、そうでなければ見守ってほしい」と助言する。

 

 電車やバスで座る席を探していたら席を譲るほか、突発的な出来事に困っている様子であれば「どうしましたか。何かお手伝いしましょうか」などと声を掛ける。災害時は安全に避難するための援助が必要という。大石さんは「一人では対応が難しい場合は、周囲の人に知らせたり、援助できる人につなげたりすることも大事」と強調する。

マークの意味「知っている」6割 通信員アンケート

 

 NEXT特捜隊がN特通信員を対象に実施したアンケート(回答者139人)では、ヘルプマークについて「見たことがあり、意味を知っている」と回答した人が全体の63.3%に上った。一方、「知らない」が28.8%、「見たことはあるが、意味は知らない」が7.9%だった。自由記述には、自身や家族がヘルプマークを使用しているというエピソードなどが寄せられた。
 ◆6歳の息子は知的障害を伴う自閉症で、感覚過敏や多動がある。ヘルプマークを母親の自分がかばんにつけている。スーパーで店員さんがよく声を掛けてくれる。商品の袋詰めを手伝ってもらえるなど、非常に助かっている。(匿名)
 ◆娘が出産のため帰省した際に、渡した。目立つようにつけさせたが、どのくらい認識が普及しているか疑問だった。(静岡市清水区、69歳、女性)
 ◆難病を患う夫が持っている。何年か前に市役所にもらいに行ったが、「それ何?」とあちこちの窓口に回された。(匿名)
 ◆マークを使うことに正直抵抗感もあるが、知ってもらうのも使命かと思っている。つけてアピールすることで、生きやすい街づくりに貢献したい。(小山町、50代、公務員女性)
 ◆何かお手伝いできればとは思っても、どう声を掛けていいのか、どう手伝えばいいか分からず、行動ができない。(匿名)
 ◆マークをつけた人を見掛けたら、手助けをしたほうがいいか見守っている。(静岡市葵区、62歳、女性)
 

てんかんの持病 堀さん(藤枝) 認識の広がりを実感

 
 

 てんかんの持病がある堀絢音さん(19)=藤枝市=は最近、ヘルプマークを使い始めた。てんかんを発症したのは小学2年の時。年々、症状は和らぎ、意識を失うような大きな発作は減ったが、現在も時折、足がしびれる部分発作がある。
 ヘルプマークは小学生の時、入院中にできた東京の友人にもらった。だが、小中高時代を通して通学時につけたことはなかった。「マークがほとんど知られていない中で、つける意味が分からなかった。周囲の目が気になったし、『私だけがつけている』のも嫌だった」と振り返る。
 最近は意識が変わった。駅や電車でヘルプマークをつける人や啓発ポスターを頻繁に見掛けるようになった。満員電車でマークをつけた人が学生から席を譲られたのを見たこともあり「つける意味を感じたし、私だけがつけている、という状況でもなくなった」。
 絢音さんの妹(16)もヘルプマークを使用する。自閉症で音やにおいに過敏、人混みが苦手という。外出先で多目的トイレを利用した際「普通の子なのに」と言われた経験があった。母親の由希子さん(41)は「私が一緒に入る必要がある時にも、マークがあれば周囲の理解が得やすい」という。
 絢音さんは「ヘルプマークを知る人が増えれば、昔の自分のように使うのをためらう人たちも、使いやすくなるのではないか」と語り、さらなる普及に期待を寄せる。
 

先天性心疾患 伊藤さん(浜松出身) お守りのようなもの

 
 

 先天性心疾患がある臨床工学技士の伊藤綾さん(35)=浜松市出身、愛知県在住=は6年前から、ヘルプマークをリュックにつけて外出している。ペースメーカーを体に入れていて「自分の心臓の動力は、一般の人が自動車だとすると原付くらい」と説明する。
 「ヘルプマークはお守りのようなもの」。駅で階段を上がるのは大変で、エレベーターを使用する。ただ、病気は外見から分からないため、高齢者やベビーカーの親子連れの利用が多い時には「若い人がなぜ、と思われてしまう可能性もある」。そうした時に「マークがあれば周囲の目をそこまで気にせずに済み、自分の気持ちも楽」と語る。災害発生時には避難に援助が必要な場合も予想されるため「ヘルプマークが必要」と考える。
 年末の新幹線の混雑時、席を譲ってもらった経験があり「とてもありがたかった」と振り返る。ヘルプマークをつける中で「嫌がらせを受けるなどデメリットを感じたことはない」という。
 「ヘルプマークをつけている人が必要な援助は人それぞれ。例えば、電車で立っていた方が楽という人もいる」。自身は人から声を掛けてもらった際には、その時の状況や必要な助けを説明し、感謝を伝えるよう心掛けている。「周囲の人に察してもらうのは難しい。会話ができる場合には、こちらからも伝えるという意識を大切にしたい」と語る。

静岡県内企業 ヘルプマーク普及へ協力

 
 

 県内では、ヘルプマークの認知度向上を目指す活動に取り組む企業もある。SDGs(持続可能な開発目標)推進や地域貢献の一環として、ヘルプマークの浸透を図る。
 浜松いわた信用金庫は2020年から、県西部の企業を対象に啓発を進めている。SDGs推進部副部長の竹内嘉邦さんが、ヘルプマークの普及に取り組む全国心臓病の子どもを守る会県支部の大石裕香さんから「企業とつながり、協力を得たい」と相談を受けたのがきっかけだった。
 竹内さんは、大石さんと一緒に企業を訪問してヘルプマークを紹介し、啓発ポスターの掲示を依頼する機会を設けた。自身が企業向けに講演をする際も、マークに関する内容を含めるようにしている。これまでに70社ほどで周知活動を行った。
 同金庫内では店舗にポスターを掲示するほか、新入職員研修でもヘルプマークについて扱う。竹内さんは「職員の中にもヘルプマークを持つ人や必要とする人がいる。金庫内での周知は、顧客対応に生かされるのはもちろん、職員同士が互いに相談しやすい空気の醸成につながる」と意義を語る。
 サッカーJ1清水エスパルスは、2月に「ヘルプマーク周知フォーラム」(県主催、NPO法人オールしずおかベストコミュニティ運営)に参加したのをきっかけに、静岡商業高や静岡市と連携した啓発活動を始めた。生徒にヘルプマークへの理解を深めてもらった上で、認知度を高める方法を検討し、ホームゲームでのPR活動も予定する。ホームタウン営業部の鈴木詩織さんは「クラブの発信力と若い力を生かし、周知に貢献したい」と意気込む。


 

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