社説(7月8日)リニア工事水問題 政治姿勢、明確にすべき
リニア中央新幹線南アルプストンネル工事に伴う大井川の水問題は参院選静岡選挙区で明確な争点になっていない。流域での遊説で「水を守る」との訴えや、「建設を中止すべき」との表明があるものの、山積する内政外交の課題に埋没しがちだ。
政治家としてリニア建設問題をいかに解決に導くかは、インフラ整備と環境問題への政治姿勢を反映する。静岡県民の1票の選択で大切な判断材料になる。国策として東京、名古屋、大阪をつなぐ巨大経済圏を構築するとの議論もあり、各立候補者や政党などは立場を曖昧にしてはならない。
国土交通省の専門家会議は生態系への影響の検証に着手した。JR東海の資料によると、大井川源流部で地下水位の低下が起きる可能性がある。生態系の議論がまとまると、国交省は昨年12月に示した水問題の中間報告と合わせ、最終報告を取りまとめる。静岡工区でのトンネル工事の可否を政治判断する重大局面が来る。
公示直前、岸田文雄首相は山梨県の実験線でリニアに試乗した。名古屋―大阪の環境影響評価(アセスメント)を進め「全線開業の前倒しを図る」と踏み込んだ。国としての支援や助言を約束し、政府が主体的に取り組む姿勢を改めて明確にした。これを機に、静岡県は着工を阻止すべきでないとの主張が散見される。
2020年にJR東海の金子慎社長と国交省の事務次官が相次いで川勝平太知事と会談した。作業基地の追加工事の着手を求め、いずれも決裂し、全国ニュースで「静岡問題」と報道された。大村秀章愛知県知事は「27年開業は沿線の総意」と述べ、吉村洋文大阪府知事は「一つの県が嫌だと言えば国家戦略が止まるのはおかしい」と批判した。ネット上に誹謗[ひぼう]中傷や誤解に基づく情報が掲載され、静岡県議会は対応策を議論した経過がある。
リニアの早期全線整備を掲げる期成同盟会に、静岡県が参加する見通しとなった。会議への出席が認められたなら、加盟している9都府県の知事に、本県とJR東海との協議経過を丁寧に説明すべきだ。
沿線では発生土置き場や大深度地下トンネルへの懸念が表面化した。早期開業には静岡県での水問題を含め、各県の課題解決が欠かせない。自民党が参院選の総合政策集に早期開業と、水資源と自然環境への影響の回避・軽減との両立を掲げたように、いまこそ政治の力が必要だ。国会議員は地域の声を聞き、利害関係を調整する役割があることを肝に銘じてほしい。