母の代役「助けて」言えず ヤングケアラー、浜松の専門学生 支援態勢構築願う【参院選しずおか】

 家族の介護や家事を大人に代わって日常的に担うなど、家庭で重い負担を抱えるヤングケアラー。本来は打ち込めるはずの勉強や部活動、将来の夢に向けて励む時間などが失われる恐れがあるとして、社会の関心が高まっている。相談や支援態勢の整備は今後、どのように進められるのか。最終盤を迎えた参院選でも、候補者の主張や姿勢が注目される。

精神疾患を患った母親をケアし、家事を担った経験を語る男子専門学生=6月下旬、浜松市中区
精神疾患を患った母親をケアし、家事を担った経験を語る男子専門学生=6月下旬、浜松市中区

 「生活に必死で自分がヤングケアラーだなんて気づかなかった。一人で悩んでいた」。浜松市の専門学生の男性(20)は、こう振り返る。高校時代から、精神疾患のあった母親の状況をみながら7歳下の妹の世話や家事、家計と自身の進学のためのバイトを続け、家族を支えた。
 父親がうつ病で仕事を失った時期があり、母親も働きに出ることが多く、中学の頃から家事を手伝う機会が増えた。高校2年時に両親が離婚。以来、母親の情緒が不安定になり始めた。幻聴の症状が現れ、自分や妹に怒鳴ることが多くなった。
 症状には波があり、ひどくなると家事が手に付かないため、代役を担った。小学生の妹に強くあたらないようにと、母親の話を聞いてなだめた。バイトの疲れも重なり、学校も遅刻しがちになった。
 奨学金を活用し、専門学校に進学した。だが、2年になった昨年、母親が職場を解雇され、その影響で症状が悪化。不安定な家庭環境の中、妹は進んだばかりの中学に通えなくなった。
 そんな「異変」を察した妹の学校の教師が連絡をくれた。児童相談所に相談に行き、母親と病院を訪れた。治療により、症状は改善し始めた。母親は再就職し、妹も学校に戻るようになった。
 男性は「家庭に異変が起きているとの自覚はなかった。母が気の毒で、周囲に助けを求める勇気もなかった」と話す。自身の経験を踏まえ「助けを求めることができない当事者もいる。ヤングケアラーを授業で取り上げるなど存在の周知に加え、支援の仕組みを早急に築き、改善につなげてほしい」と願う。

 ■自覚ない当事者多く
 ヤングケアラーは家族の世話を「当たり前」と認識し、当事者に自覚がないケースも多い。日本ケアラー連盟の代表理事を務める立命館大学の津止正敏教授は、遅刻や居眠りの増加など「子どもの小さな変化」を、接点が多い学校教員が察知する視点が重要になると指摘する。
 県は6月、県内の小学5年~高校3年生25万6966人を対象に初めて実施した実態調査の結果を公表した。家族のケアをする児童・生徒は全体の4.6%(22人に1人)に上り、このうち2割超が「学校生活に影響がある」と回答した。
 ヤングケアラーの相談窓口設置や支援のための条例制定など、全国の自治体で支援施策が展開され始めている。津止教授は「認知度の普及は当事者にケアラーしての自覚を促す」と評価しながら、「ヤングケアラーもいずれは大人になる。最終的には世代を問わないケアラーの支援が必要だ」と強調する。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞