南海トラフ地震臨時情報 「1週間の事前避難」備えや周知停滞

 南海トラフ沿いで大地震が発生する可能性が高まった際に気象庁から発表される「臨時情報」。最も危険度が高い「巨大地震警戒」が出た場合、津波被害が大きい沿岸部の住民は後発の大地震に備えて1週間の事前避難が必要になる。制度の本格運用開始から3年。静岡県内では津波避難対策特別強化地域21市町の全てで事前避難の対象地域は指定されたが、具体的な防災対応の検討は進んでいない。住民への周知も依然、停滞したままだ。
 「巨大地震警戒」が発表された場合、各自が日ごろの備えを再確認し、対象地域の住民は知人や親戚宅へ事前避難するのが大原則となる。一方、知人宅などへ避難できない住民に向けて、市町が避難先を確保する。県内では15市町が事前避難対象地域を指定しているが、9市町で避難先の検討が十分にできていなかった。


 想定される津波到達時間が最短で5分の西伊豆町は、人口の7割に当たる約5千人が対象。「想定浸水区域外に公共施設はなく、確保が難しい」(担当者)という。今年4月には津波や風水害の被害想定をまとめたハザードマップを全戸配布し、臨時情報の紹介も盛り込んだ。ただ、事前避難対象地域の指定状況や、住民が自ら事前避難先を確保する必要性については記載していない。担当者は「今後、区長会議などで説明していきたい」とする。
 2019年度に臨時情報の防災対応をまとめた「県版ガイドライン」策定のモデル地区だった伊豆、湖西、河津の3市町でも検討は進展していない。伊豆市の担当者は土肥地区以外の対象地区について「周知や避難先の検討は展開できていない」と説明する。臨時情報が出ても、できるだけ日常生活や経済活動は継続するのが基本。「仕組みを説明するだけでも一苦労。自治体だけでは周知できない。国がもっと分かりやすい発信をしてほしい」と要望する。
 湖西市は県版ガイドライン策定の際、事前避難先候補地の確保や独居高齢者の避難方法、移動手段を引き続き検討が必要な課題としていた。市の担当者は「新型コロナ対応でなかなか手が回らない」と打ち明けた。



「危機的状況」 専門家 啓発求める声

 南海トラフ地震臨時情報の周知や体制整備が進まない理由について、制度の複雑さに加えて「新型コロナウイルスや風水害の対応に比べて優先度が下がる」といった声が複数の市町からあった。専門家は現状を「危機的な状況」とみて、国を挙げての周知啓発や議論の深化を求めている。
 南海トラフ沿いの異常に備えた防災対応を検討したワーキンググループ(WG)の主査を務めた福和伸夫名古屋大名誉教授は「国、県、市町はできない理由ばかり挙げている」と手厳しい。内閣府は周知のツールとして動画や漫画を公開しているが「国としての周知や議論の場の設定が足りていない」と指摘。「自治体間の対応の調整など(WGの)報告書がまとまった段階で積み残された課題の検討もできていない」と積極的な議論を促す。
 県や市町には「突発地震の被害を少しでも減らすためにも、臨時情報の仕組みを活用して備えることが大切。意識を改めて取り組んで」と訴える。
 WGの委員だった静岡大防災総合センターの岩田孝仁特任教授は「現状で臨時情報が出されたら社会混乱だけが生じる」と警鐘を鳴らす。「本県は津波の到達時間が早く、逃げ遅れが発生する可能性が高い市町があるからこそ、対応を細やかに議論すべき」と強調。コロナ禍で訓練もままならない状況について「臨時情報は日ごろからの備えを再確認してもらうのが基本。集まらなくとも、情報が出されたことを想定し、各自でどう行動するか考えてもらうことはできる」と工夫を呼びかける。

 <メモ>南海トラフ地震臨時情報 「調査中」「巨大地震注意」「巨大地震警戒」「調査終了」の4種類がある。本県で事前避難が必要になるのは、想定震源域内の西側でマグニチュード(M)8以上のプレート境界地震が発生し、割れ残った東側で後発地震の可能性が高まった場合。最初の地震が起きた段階で沿岸部には大津波警報などが発表され、住民は緊急避難場所へ避難している状態だが、事前避難対象者は臨時情報を受け、より長期的にとどまることができる事前避難先に移動する。地域内の全住民が対象の「住民事前避難」と高齢者ら要支援者が避難する「高齢者等事前避難」があり、実情に応じて市町が決める。


 

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