あなたにとって理想の公園は③ 有識者インタビュー②【賛否万論】

 全国に約11万カ所ある公園の未来について考えています。これまで多額の税金が投入され、国民1人当たり6畳一間ほどの公園が整備されてきましたが、維持管理が追いつかず「物騒だ」「暗くて怖い」などと苦情が出ている場所も少なくありません。コロナ禍で公園の価値が見直されている今、せっかくの身近なスペースを生かしていく方法を考えてみませんか。静岡市清水区在住で大妻女子大教授の木下勇さん(67)と、県都市公園懇話会会長の井口義也さん(68)に話を聞きました。

木下勇さん
木下勇さん
井口義也さん
井口義也さん
木下勇さん
井口義也さん

 

知恵絞り、自分たちでつくる 大妻女子大教授 木下勇さん


 木下さんが委員長を務めた日本学術会議分科会は2020年、子どもの成育環境に関する提言の中で「子どもが屋外遊びをしなくなった。深刻な危機」という指摘をしました。現状を教えてください。
 子どもが外遊びをしなくなった要因はデジタル社会の到来などいくつか挙がりますが、魅力的な公園がないこともその一つでしょう。公園の維持管理の予算が減り、面白い公園づくりができなくなり、遊具は老朽化すれば撤去されたまま。身近な公園はどんどん魅力的でなくなり、使われなくなる悪循環になっています。これでいいのか、ということを根本から考えなければいけません。子どもは日の当たる場所である程度の時間を過ごさなければ、発達に大きな影響が出る。家庭だけでなく、学校だけでもなく、地域全体で子どもの成長をどう保証するか。持続可能な仕組みが必要です。

 子どもをどこで遊ばせたらいいか、分かりません。
 昔は町全体が遊び場でした。公園だけでなく、道路や空き地、川に行き、多様な遊びでさまざまな経験をすることができた。特に道路は、いろいろな人と出会う場所でした。外から声が聞こえれば、次第に異年齢の子どもたちが集まり出し、悪さをすれば地域の人に怒られた。社会の成り立ちを学ぶ大切な場所でした。今は子どもの遊び場にもできるゾーンなどを道路に設ける施策があっても、なかなか手が挙がらないと聞きます。人とのつながりが薄れ、孤立化した家庭は不安を増大させ、防犯カメラを設置する。ぎすぎすした社会の中で子どもたちは育っています。昔に戻ることが難しいならば、子どもを育てる新しい環境づくりを考えていく必要があるでしょう。

 ー参考になる事例は。
 欧州や米国には、菜園のある公園がありました。みんなで育てる菜園で、食べられるものが植えてある。地域のみんなで収穫して、テーブルを出し、ピザ釜で焼いて食べる。子どもたちが身近な公園に来る仕掛けをつくっていました。国内のある自治体に「公園にジャガイモを植えていいか」と聞きに行ったことがあります。回答は「花はいいけれど、ジャガイモは駄目。食べるものは個人の胃に入り、公共物の私物化になる」と。一方、「収穫したものを老人ホームなどに寄贈したりすれば大丈夫では」とのことでした。知恵を絞ることは大切です。収穫祭と、災害時に備えた炊き出し訓練を一緒に開催する計画ならどうか。火を使うなら、消防署に協力してもらって消火訓練もセットにしてみたら可能かどうか。こうしたアイデアを競う公園コンテストを開催している自治体もあります。

 ー多世代が楽しめる公園づくりは可能ですか。
 それをやらなければいけないでしょう。トラブルを避けようとしてはいけません。トラブルが起きたら、話し合いの中に子どもも入れ、大人は子どもの言い分を聞く。子どもも、大人の言い分を聞く。その中でどう折り合いをつけていくか。トラブルは人間関係をつくるきっかけになります。公共施設は公園に限らず、自分たちでつくっていくものです。地域の団体が公共を担い、行政は補完する役割を担う。その関係が活力を生み出します。行政と住民のこれまでの関係を変えるには、住民参加のしやすい公園は一番いい材料になると思います。
 

管理者と利用者、話し合って 県都市公園懇話会会長 井口義也さん


 ーコロナ禍以降、公園に変化はありましたか。
 東京都内では一時、屋外の居場所を求めて子どもが公園に集中し、閉園となったことがありました。今まで利用してこなかった人に、公園を再評価してもらえたのではないでしょうか。「身近に公園があることは、こんなに大切なことなんだ」と。ただ、コロナは接触による感染リスクもあるので、外遊びとはいえゼロリスクとは言えないでしょう。必ず手洗いをすることが大切になります。国も地方も厳しい財政事情ですが、手洗い所の整備などについては積極的に予算を付ける流れになっています。コロナ対策として、すぐにできて、効果もある。現在は遊具が増えるような状況にはありませんが、公園の価値が見直されたことで、今後は予算の優先順位が上がるようなことがあるかもしれません。

 ー幼児向け遊具や健康器具が増え、小学年代が楽しめる遊具が減っているという声を聞きます。
 遊具による事故が多発したことを受けて、国は2002年に遊具の安全確保に関する指針を作り、日本公園施設業協会はこれに従って独自の基準を定めました。例えば、昔あった箱形ブランコは今は設置できません。子どもたちがたくさん乗ると、何百キロという大きな塊になる。乗った子どもも、近くにいる子どもも危険でした。事故は絶対に起きてはいけない。保護者の方々の中には「安全な遊具で遊ばせたい」という人もいれば、「もう少しチャレンジングな遊具を」と考える人もいます。すり合わせは難しいところです。ただ全国には、02年以前に設置された遊具がまだ相当残っています。劣化もしているので、早く取り換える必要があります。

 ー国は、公園を「つくる」から「使いこなす」方向にかじを切っています。
 かつての日本は諸外国に比べて公園の数が桁違いに少なく、とにかく公園の整備に取り組んできました。それから何十年を経て、100%十分とは言えませんが、量的な部分はある程度の水準まできました。これからは質の部分が大切になってきます。今は「公園的な都市」をつくるという考え方で、道路や河川なども利用する流れになっています。限られた予算の中では、こうした「公園的な空間」を確保しながら、既存の公園は長寿命化を図っていかざるを得ないということでしょう。

 公園を活用するために、行政や、私たち利用者が意識しなければいけないことは。
 行政は、地域の事情を考慮せずにステレオタイプの公園をつくるのではなく、手間と時間はかかるけれども、利用者と話し合いの場を設けていくことでは。行政改革で職員の数も減り、できることには限界がある。地域に助けてもらうことも必要でしょう。利用者側は「自分たちも責任を負う」という意識を持つことが求められます。管理者責任ばかりを追及しては、行政側も「あれもするな、これもするな」と、がんじがらめに規則をつくることになります。利用者の行動が、公園の制限につながっている部分もたくさんある。作る立場、利用する立場の人が一緒になって考えれば、多世代が楽しめる公園づくりは可能だと思います。自分が遊んだ公園、子どもを育てた公園、高齢者として使う公園。いつの時代も満足できる公園を作り上げようという社会になればいいと思います。

木下勇(いさみ)さん 南伊豆町出身で、旧下田北高(現下田高)卒。千葉大名誉教授。2020年から大妻女子大社会情報学部教授。専門は住民参加の街づくりや都市計画。現在はこども環境学会副会長や「しずおか民家活用推進協会」副会長を務める。20年に千葉県から静岡市清水区蒲原地区に移住した。

井口義也(よしや)さん 東京大都市工学科卒業後、建設省に入省。長く公園行政に携わる。沖縄記念公園事務所長、岡山市助役、都市緑化技術開発機構研究第一部長などを歴任した。2016年に県都市公園懇話会の委員に就任し現在3期目。20年に会長に就いた。日本公園施設業協会専務理事。
 

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