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熱海土石流 行政が防げた「人災」 住民の生命最優先せよ【残土の闇 警告・伊豆山 取材班提言】

 2021年7月3日に熱海市伊豆山で発生し、災害関連死を含め27人が死亡、1人が行方不明になっている大規模土石流。被害を拡大したいわゆる「盛り土」問題について、静岡新聞社熱海土石流取材班は同年12月から展開してきた長期連載「残土の闇 警告・伊豆山」の取材を基に三つの提言をまとめた。二度と悲劇を繰り返さないために、国、県、市町、そして地域は何をすべきか-。現場から浮かび上がったそれぞれの在り方を提言する。

住宅地を飲み込む土石流。瞬間を捉えた動画がSNSで拡散し衝撃を与えた=2021年7月3日、熱海市伊豆山
住宅地を飲み込む土石流。瞬間を捉えた動画がSNSで拡散し衝撃を与えた=2021年7月3日、熱海市伊豆山

 

①新法だけでは不十分だ

 伊豆山の大規模土石流災害は「盛り土」ではなく「急斜面への残土投棄」の問題だと捉えるべきだ。逢初(あいぞめ)川上流域の急斜面に残土処分場が造成されたことが大きな要因になった。土地所有者や造成業者、行政(国、静岡県、熱海市)の対応次第で防げた「人災」だった。
 国や県は盛り土に着目した法律や条例を作ったが、不十分だ。再発防止には残土の発生から処分までをコントロールする仕組みと、残土を危険な場所に捨てさせない仕組みがセットで必要になる。これらを確実に運用するために建設、土木、輸送など幅広い業界の自助努力も必要だ。
 上流の地権者の「私権」を優先し、危険な場所を砂防規制しなかった国や県の対応も見過ごせない。下流の住民の「生命」を最優先する運用を徹底すべきだ。

 

②行政は適切な法適用と情報開示を

 県は森林法に基づく林地開発許可の運用をいま一度見直し、開発に伴う災害発生や環境悪化の防止という制度の趣旨に立ち返って適用すべきだ。県は開発面積が1ヘクタールを下回るという理由で同制度の対象外と判断した。だが、所有者の同一性などに着目すれば、適用は十分あり得た。
 近年、急増する太陽光発電施設整備に対する同制度適用の在り方が喫緊の課題になっている。同じ過ちを繰り返してはならない。
 7月施行の県盛り土規制条例により、不適切な盛り土造成への指導権限は市町から県に移る。しかし、現場に最も近い市町の責任の重さは変わらない。
 伊豆山では逢初川源頭部に不適切に残土が盛られ、河川や海に何度も流出した。そのことを市は長年認識していたが、ほとんどの住民は実態を知らなかった。事前に周知されていれば大雨時の住民の避難行動が変わり、助かった命があったはずだ。担当者レベルで抱え込む体質だと問題は属人化し、人事異動とともに危機感が薄れる。行政は最悪を想定し、不都合な情報ほど積極的に開示できる体質になるべきだ。

 

③官民で団結し毅然と対応を

 伊豆山では2000年代からダンプカーが連日、大量の土砂を逢初川源頭部に運び込む様子を複数の住民が目撃し、市に通報していた。しかし、市は土地所有者への措置命令を見送り、現場には基準を大幅に超える高さ約50メートルの盛り土が10年間放置された。
 不適切な土砂投棄に手を焼く自治体は全国にある。新たな法律や条例ができても、行政指導をのらりくらりとかわす業者は今後も出てくるだろう。徹底的な対抗措置を講じてほしい。
 そのためには住民の目と声も重要だ。残土搬入や盛り土を目撃していた伊豆山の住民は「地域全体で問題が共有されるまで声を上げ続ければ良かった」と悔やむ。遺族らでつくる「被害者の会」の瀬下雄史会長(54)は「無能な行政とおとなしい住民が重なったところに悪質業者ははびこる。だからこそ団結して悪に毅然(きぜん)と対応することが必要」という。裏を返せば「有能な行政」と「積極的な住民」が団結し、毅然と対処すれば不適切な土砂処分を撲滅できるはずだ。

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