テーマ : 島田市

外国人材の平等求めたい ブラジル出身の訪問介護員 宮城ユカリさん【決める、未来 若者×若者ー1票の価値とは⑤完】

 ブラジルで生まれ、8歳で日本に移住した島田市の訪問介護員宮城ユカリさん(25)。日本国籍と投票権を持ち、高齢化が進む在留外国人の医療福祉の向上を見据え「もっと政治に関心を持たなければ」と1票の重みを改めて感じている。多文化共生が進む日本における選挙の在り方を見つめ直そうと、浜松総局の日比野都麦記者(24)が取材した。

勤めている訪問介護事業所で職員と話す宮城さん=21日、島田市
勤めている訪問介護事業所で職員と話す宮城さん=21日、島田市

 「ケア行ってきます!」。勤務する同市の訪問介護事業所から車で高齢者宅に出向き、食事や入浴を支援。夜は職場の勉強会に参加し、介護スキルの向上に日々励んでいる。
 小学校から大学まで過ごした浜松市には、日本最多の約9400人のブラジル人が住んでいる。在留外国人は言葉の壁もあり、介護サービスの申請手続きなども簡単ではない。「日本人と同じ支援を受けることが難しい人がいる。自分が何か力になれたらと思い、訪問介護の仕事を選んだ」と打ち明けた。
 介護業界は外国人材が投入されている分野の一つ。「一時的な人材不足を補うのではなく、永続的に外国人材が働けて、日本人と平等となるような制度を国や政治に求めたい」と宮城さん。「選挙では介護や多文化共生の政策に注目しているが、それらをメインで語る候補者は少ない」と残念がる。
 日本国籍のない在留外国人には参政権がない一方、日本人の20代の半数以上は与えられた投票権を行使していない。宮城さんはどう見ているのか。
 3年ほど前、ブラジルに7カ月間留学した宮城さんは「ブラジルでは学生同士が政治について積極的に話す。『日本はどうなの』と聞かれ、答えられずに焦った」と振り返る。
 ブラジルは18~70歳の投票を義務化している。正当な理由なく棄権すると罰金を科せられるため、投票率は90%以上とされる。「ブラジルに住んでいた7歳の頃、模擬投票のようなことをした記憶がある。幼い時期からの意識付けの影響は少なくない」と宮城さんは振り返る。
 「在留外国人が日本国籍を取得するのは想像以上に難しい。日本の政治との間にはまだ隔たりがある。日系外国人の存在を知らない日本人も多い」。在留外国人といっても、日本に来た背景や育った環境は人それぞれ。多文化共生について議論を進めるためにも、まずは現状を知ってほしいと訴える。

 みやぎ・ゆかり ブラジル・サンパウロ出身。日系ブラジル人の両親らと共に日本へ移住した。静岡文化芸術大卒。在浜松ブラジル総領事館の市民評議会や、外国にルーツのある若者でつくる浜松市の団体「カラーズ」に所属する。

 〈取材後記〉成人になったら投票できる。当たり前と思っていたが、在留外国人はそうではないことを改めて痛感した。
 宮城さんの友人は日本国籍の取得に1年かかったという。「日本国籍を取得すると、ブラジル国籍は捨てなくてはならない。母国に戻る選択肢を残したい人は、どうしても抵抗がある」と宮城さん。日本国籍を取れば全て解決する話ではない。
 自分も大学時代、インドネシアや韓国の留学生と接してきた。「いつか日本で働きたい」と言っていた彼女たちが夢をかなえた時、誰もが暮らしやすい国に近づいているように。今からしっかり権利を行使したい。
 ひびの・つむぎ 2020年静岡新聞社入社。社会部を経て、21年から浜松総局記者。名古屋市出身。
 
 ■投票率向上キャンペーン「決める、未来」
 静岡新聞社は、若年層の投票率が低い状況を社会的な課題と受け止め、若者投票率向上キャンペーン「決める、未来」を展開します。「なぜ若者はあまり投票に行きたがらないのか」「どうしたら政治への関心や期待を高められるか」といった疑問への答えを探るため幅広い人々に取材し、新たな視点の企画を掲載していきます。

いい茶0

島田市の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞