逢初川砂防 国「上流全体の規制を」 98年申請時、静岡県放置

 熱海市伊豆山の大規模土石流の発生源となった逢初(あいぞめ)川上流域で残土投棄などを制限する砂防規制が見送られていた問題で、県が1998年に上流の一部に規制範囲を限定して国に申請した際、国が上流全体を規制範囲に含めるよう再検討を求めていたことが、24日までの静岡県への取材で分かった。県は上流域の地権者の反対を理由に規制範囲を限定する方針を変えず、上流全体の規制は「今後進める」と国に回答していた。

逢初川上流の砂防規制見送りの経緯
逢初川上流の砂防規制見送りの経緯
砂防規制見送りのイメージ図
砂防規制見送りのイメージ図
逢初川上流の砂防規制見送りの経緯
砂防規制見送りのイメージ図

 しかし、県はその後、規制範囲を砂防ダム付近に限定したまま放置した。国の要請に応じて上流全体を規制していれば、昨年7月の土石流で崩落した盛り土(残土処分場)が規制対象に含まれ、搬入の初期段階で残土投棄を止められた可能性がある。規制に地権者の同意が必要だと判断した県の対応の妥当性が焦点になりそうだ。
 国の再検討要請は、県が作成した公文書に記されていた。98年10月、砂防ダム新設に伴い規制範囲を国に申請した文書に添付した書類とみられる。同年9月の国によるヒアリングで上流全体を規制できないか指摘され、その後に範囲を再検討したとする経緯を記載していた。
 再検討結果として、地権者と再協議しても上流全体の同意が得られなかったことや「(上流域の大半が)東京、名古屋など県外在住10名の共有地となっていることもあり、現状、同意が得られる見通しは立たない状況」とも書かれていた。
 県砂防課は取材に「当時の担当職員にヒアリングしたところ(文書に関する)『記憶がない』と言っていた」と説明している。申請の審査を担う国土交通省砂防計画課は「申請時の記録は残っていない」と答えた。

 ■記者の目 機能しないダム無意味
 標高400メートルほどの熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川上流域に足を運ぶと、眼下の相模湾に向けて驚くほどの下り坂だと分かる。ボールを地面に置いたらどこまでも転がるような急斜面。その途中には、下流の集落を守るため、県が砂防ダムを設置していた。
 昨年7月に発生した大規模土石流は砂防ダムをやすやすと乗り越え、下流の住民の命を奪い、人家を破壊した。上流の急斜面には盛り土(残土処分場)があり、持ち込まれた大量の土砂(小学校プール約170杯分)が崩落した。ダム容量をはるかに上回る量だった。
 砂防ダムは上流から崩れる土砂を受け止めるダム本体と、崩れる土砂の発生を抑える上流全体の規制がセットで効果を発揮する。ところが、地権者の不同意を理由に国や県は上流の土砂発生源を規制せず、残土処分場の造成を許した。下流の住民の命より上流の地権者の「私権」を優先したと言わざるを得ない。機能しない砂防ダムでは意味がない。
 

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