静岡県盛り土規制、周知期間短く混乱 7月1日施行、相談殺到
盛り土(積み上げた残土)の崩落が被害を拡大させたとされる熱海市伊豆山の大規模土石流を受け、7月1日に施行される県盛り土規制条例。3月の県議会で制定されたが、周知期間が短いことや制度の複雑さから県に相談が殺到し、関係業者から事業の遅れを懸念する声が上がっている。県は他県にも同様の規制があるとして粘り強く協力を求める方針。混乱の中での“船出”となる新条例は、野放図な残土投棄の歯止めになるのか。=関連記事26面へ
「工事が新条例の対象かはっきりしない」「他の法令との関係は」―。施行まで1カ月を切った6月上旬。静岡市葵区で開かれた新条例の説明会の終了後、会場に残った建設業者が県担当者を質問攻めにした。ある業者は取材に「悪いのは許可を受けない一部の業者だ。ルールを守る業者の事業に遅れが出ないようにしてほしい」と言って会場を去った。
■「一元対応」
県によると、これまでに想定を上回る約300件の相談が寄せられている。許可手続きは盛土対策課の職員5人が担うが「一元対応が新条例の趣旨」だとして事前協議などは他部局所管の出先機関で受け付けず、県庁に限定。必要に応じて同課の対応職員を増員する方針だが、県関係者には「縦割りの弊害」という見方もある。
新条例は近隣住民向けの説明会の開催、申請用の大量の書類などが必要で、他の法令との関係も複雑で分かりにくい。土石流発生から1年になる7月に施行を合わせたため「走りながらの準備作業」(県関係者)を強いられた。
条例説明会に参加した行政書士は「周知期間が短すぎる」「許可までに時間がかかり過ぎないか」と県の対応に疑問を呈した。
■他県にも条例
熱海の土石流は土砂に汚染物質が含まれていて多額の処理費がかかったため、新条例は土壌汚染にも対応した。搬入前や工事中の土壌分析を義務付け、業者から「費用がかさむ」という声も上がる。ただ、県によると、耕作放棄地に残土が持ち込まれる問題も県内で相次ぎ、土壌汚染による水質悪化が懸念されるという。
三重や千葉など大都市周辺の他県にも同様の規制があり、地元説明会の開催や定期的な施工状況の報告などは10県以上で義務化されている。静岡県盛土対策課の望月満課長は「負担になって申し訳ないが、再発を防ぐために協力してほしい」と理解を求めている。