2年目の演劇アカデミー 劇場だからできること【黒潮】

 静岡県舞台芸術センター(SPAC)が高校生を指導する演劇アカデミーの2期生15人の活動がスタートした。世界で活躍する演劇人の育成を目指す県の事業。年度末まで、放課後や週末に週3回というスケジュールはハードだが、募集に意欲を見せた10代にとってまたとない経験になることは確かだろう。
 校長を務める宮城聰芸術総監督は「いろいろな人がいる場所で、まずは全然知らなかった物事に興味を持ってもらえたら」とアウトプットを急がせないスタンス。劇場で得られる物の見方や考え方をいつか演劇に役立てて、との期待を込める。
 学校の部活動をはじめ、演劇を教育に取り入れる場は以前からある。SPACでは県内の中高生を学校単位で招待する無料公演が20年続く。舞台芸術に関心を持ってもらう入り口として、延べ20万人を観劇させてきた実績は大きい。
 演劇アカデミーの特徴の一つは、プロの劇団員が活動する劇場で実施するところだ。リモート講義を併用するものの、静岡市内にある専用劇場に毎週集まって演劇体験の奥まで踏み込む。舞台に立つための実技のほか、教養や英会話など思考力や対話力を磨くメニューは、俳優養成の枠を超えた世界を見せる。
 1期目の活動を踏まえて形を変えたところがある。小論文はさまざまなテーマについて論を立てる習慣を身につけさせる。実技のレッスンには演劇史を学ぶ要素を取り入れた。アカデミーは県立高で計画されている演劇専門教育の研究の場と位置づけられ、メニューの見直しはカリキュラム作成の成否を握る工程として注目している。
 同時に、県内全域から劇場に足を運んでもらう事業には、受講生のモチベーション維持が欠かせない。部活や受験と並行する活動は、納得の結果を出せる時ばかりではないはずだ。
 1期生の参加や助言など、プログラムだけでは得られないような刺激も時には有効だろう。受講生には劇場に出入りするスタッフやゲスト、観客、記者からも何かを感じ取ってもらえたらうれしい。人がごちゃっと集まる劇場の環境を最大限に生かして。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞