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社説(6月15日)島根再稼働同意 住民避難 実効性あるか

 島根県の丸山達也知事が、中国電力島根原発2号機(松江市)再稼働への同意を表明したことで、地元同意の手続きが整った。2号機は早ければ2023年度にも再稼働する可能性が出てきた。
 島根2号機は、過酷事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型炉(BWR)。原子力規制委員会の新規制基準への適合審査に合格したBWRはほかにもあるが、再稼働した原発はまだない。他原発の状況次第では島根原発でBWRが初めて動く。中部電力が再稼働へ申請中の浜岡原発3、4号機(御前崎市)も同じBWRだ。島根原発の動向は目が離せない。
 審査に合格し、所定の手続きが終了したとしても、住民避難の面で課題は残る。島根原発は全国で唯一、県庁所在地に立地。避難計画が義務付けられている30キロ圏には島根、鳥取両県の計6市が含まれ、人口は約46万人。その中には高齢者も多い。事故発生時、どのように避難させるのか、実効性を高めていく必要がある。
 21年3月の日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)の運転差し止め訴訟で、水戸地裁は避難計画に不備があるとして運転を認めない判決を言い渡した。避難計画は規制委の審査には含まれず、自治体任せでは徹底しないのではないか。国の責任で実効性を担保する仕組みをつくるべきだ。
 丸山知事は「再稼働は現状においてやむを得ない」と述べ、同意を「苦渋の判断」とした。丸山知事が同意を表明する前に、30キロ圏6市も既に同意している。ただし、住民の声がどこまで反映されているのか疑問だ。
 原油や液化天然ガス(LNG)が世界的に高騰し、国内では電力逼迫[ひっぱく]が懸念されている。原発再稼働を求める声が高まっているのも確かだ。脱炭素化が求められ、石炭火力への風当たりが強まる中で、再生可能エネルギーだけで電力を賄うことは難しい。原発は発電時に二酸化炭素を発生しない。
 かといって安全性の不安解消はいまだにできない。BWRは再稼働で先行している加圧水型炉(PWR)に比べ大規模な設備改修が必要とされ、審査項目が増えて合格に時間がかかった。停止が長引き、運転員が長期間、実機操作できなかったことは気掛かりだ。昔を知る熟練運転員も減っていく。運転員の練度向上は不可欠だ。
 ロシアのウクライナ侵攻で、運転中の原発が武力攻撃を受けたことも衝撃だった。規制委は武力攻撃への想定はしていないとしている。ミサイルや特殊部隊の強襲をどう防ぐのか、新たな懸念材料になっている。

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