政府・国会の不作為 法規制 教訓生かせるか【残土の闇 警告・伊豆山㉙/第5章 繰り返す人災⑥完】

 熱海市伊豆山の大規模土石流を踏まえ、2022年5月に国会で成立した盛り土規制法が審議されていた4月1日の衆院国土交通委員会。建設残土による不適切な盛り土造成が各地で相次ぎながら、全国一律の法規制をしてこなかった国の責任を野党議員がただした。当初はかわした斉藤鉄夫国交相だったが、重ねての追及を受けて最後に一歩踏み込んだ。

盛り土規制法案を全会一致で可決する衆院国土交通委員会=4月20日、国会
盛り土規制法案を全会一致で可決する衆院国土交通委員会=4月20日、国会

 「十分でなかったところがある。そのことは認めたい」
 残土を巡る問題は以前から政府も把握していた。例えば、03年の国交省の「建設発生土行動計画」。施策の一つに法的対応の検討を掲げた。しかし、計画は達成状況の評価もなく08年度に「建設リサイクル推進計画」と統合された。環境政策に詳しい藤倉まなみ桜美林大教授は、この段階で「捨てられた土砂をどうするかという話は消え、法規制の『ほ』の字も出なくなった」と解説する。
 大阪府豊能町で残土崩落が発生した14年以降、国会では日本維新の会が積極的に取り上げた。中心となった足立康史衆院議員は「最初のころは国交省も農林水産省も環境省も『担当はうちじゃない』と後ろ向き。権限や予算を奪い合うのとは真逆のネガティブ権限争議だった」と明かす。
 国会側の反応も鈍かった。維新が14~21年に3度提出した盛り土規制や残土のトレーサビリティー(流通履歴)確保の独自法案は、他党の理解を得られなかった。特に、協力を直接働き掛けた自民党は冷ややかだった。「議員には付き合いからくる業界への配慮、行政には縦割りの弊害やこの分野の対応の難しさを熟知しているがゆえの腰の重さを感じた」。足立氏の目に映った“不作為”の背景だ。
 後手に回った末、熱海の甚大な被害が与野党を超えた危機感にようやくつながり、規制法案は衆参ともに全会一致で可決された。ただ、対象となる盛り土規模、工事の技術基準、基礎調査手法、規制区域指定の在り方、是正措置手続き―。実務を担う自治体にとって重要なこれらのポイントは政省令やガイドライン(指針)に委ねられ、細部はまだ示されていない。
 規制区域は財産権の保護との兼ね合いから、人命を守るという法目的に沿う範囲のみが指定される。半面、条例の“格差”を縫う一部の悪質な業者によって強い規制を逃れるように残土が地域間をまたぐ実態を考えると、網のかからない「白地」へ逆に残土が集中する懸念もぬぐえない。
 そもそも、根底の問題は「残土が出ること」と指摘するのは上智大大学院の北村喜宣法学研究科委員長(行政法学・環境法学)。規制法は残土が移動する下流の受け皿整備に過ぎず、発生源対策という「上流に攻め上がっていく第一歩」だと説く。20~21年に残土対策の実態調査を行い、不適切な盛り土を未然に防ぐ措置を国交省に勧告した総務省行政評価局の担当者は「発生地で使って残土を出さないのが一番大事。仮に出ても別の現場で利用し、必要な費用が支払われる。そういうしっかりとした市場が形成されなければ、問題はまた起きる」と警鐘を鳴らす。
 国交省は今後、指針などの策定作業を本格化させる。資源有効利用促進法に基づく計画制度を強化し、残土搬出先の適正化も図る。10項目以上の付帯決議で課題への着実な対応を求めた国会もまた、これからは政府の取り組みを監視する重い責任を背負う。
 「熱海のような悲劇を二度と繰り返さないために」。残土の闇を垣間見た多くの関係者が取材に口にしたこの言葉は、法案審議の過程でも政府、議員の双方から飛び交った。教訓を生かし、誓いを守れるかが真に問われている。
 >異なる境遇 擦れ違う思い 「分断」に苦しむ被災地【残土の闇 警告・伊豆山㉚/第6章 逢初川と共に①】

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