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海洋放出計画 タンク林立「満杯」迫る【処理水の行方 福島第一原発の今㊤】

 視察用のバスで東京電力福島第1原発の構内に入ると、高さ約10メートルという円筒形の処理水タンクがびっしり林立する光景に威圧された。「今造っている23基が最後。これ以上増やす予定はありません」。敷地南端部のタンクエリアで東電の担当者は強調した。

トリチウムを含む処理水のサンプルの放射線量を測定し、安全性を説明する東電社員=5月中旬、福島県大熊町(代表撮影)
トリチウムを含む処理水のサンプルの放射線量を測定し、安全性を説明する東電社員=5月中旬、福島県大熊町(代表撮影)
福島第1原発の構内に林立する処理水タンク=5月中旬、福島県大熊町(代表撮影)
福島第1原発の構内に林立する処理水タンク=5月中旬、福島県大熊町(代表撮影)
トリチウムを含む処理水のサンプルの放射線量を測定し、安全性を説明する東電社員=5月中旬、福島県大熊町(代表撮影)
福島第1原発の構内に林立する処理水タンク=5月中旬、福島県大熊町(代表撮影)

 2011年3月の東日本大震災と津波に伴う原発事故後に増設し続けた1061基のタンクにたまった処理水は約130万トン。既に容量の95%を占め、23年夏か秋に満杯となる見込みだ。今後、原子炉で溶け落ちた核燃料(デブリ)を取り出す廃炉作業のため用地確保が急務で「敷地不足はもう限界」と担当者は話す。
 処理水とはデブリを冷却した水や原子炉建屋に入り込んだ地下水などを、セシウム吸着装置や多核種除去設備(ALPS)で浄化した水のこと。62種類の放射性物質の大部分は除去できるが技術上、トリチウムだけは除去が難しい。このため処理水を100倍以上の海水で希釈し、トリチウム濃度を国の安全基準の40分の1となる1リットル当たり1500ベクレル未満にして海に流す。
 トリチウムは雨水や川の水にも含まれ、人体への影響は小さいとされる。停止中の中部電力浜岡原発(御前崎市佐倉)を含め、国内外の多くの原発でも放出している。今後、福島第1原発で想定する放出量は11年の事故以前の管理目標値を下回る水準という。
 処理水は原発から海底トンネルを経て沖合1キロで放出する想定。護岸には放水用の立て坑が掘られ、その底部ではトンネルを掘削する「シールドマシン」が待機していた。担当者は「これは海洋放出に向けた工事ではなく、あくまで環境整備。事前了解がなくても行える」と強調したが、タンクの満杯時期を見据え、今から可能な準備は進めざるを得ない状況を表していた。
 東電が目標とする23年春の放出開始まで1年を切ったが、地元の理解は十分得られていない。同社福島第一廃炉推進カンパニーの高原憲一リスクコミュニケーターは「漁業者の気持ちや風評被害も含めて考えなければならない。地元の皆さんに理解してもらうため真摯(しんし)に対応を尽くす」と話した。

 ◇
 東京電力が福島第1原発の廃炉に向け計画する処理水の海洋放出について、原子力規制委員会は5月中旬、安全性に問題はないとする審査書案を了承した。放出設備の着工には福島県と地元2町の事前了解が必要だが、風評被害を懸念する漁業者は放出に反対している。政府と東電が目指す23年春の放出開始が見通せない中、処理水をためる千基余りのタンクは満杯の時期が迫っている。日本記者クラブの取材団に参加し、現地の状況を取材した。

 ■静岡市譲渡の「浮島」 現在も活用
 福島第1原発の港湾内では、静岡市清水区の清水港で釣り場として使われていた人工浮島「メガフロート」(全長約136メートル、幅約46メートル、高さ約3メートル)が現在も荷揚げ場として活用されている。
 原発事故後の2011年5月、5、6号機建屋にたまった放射性物質を含む「滞留水」の一時的な貯留先として、内部が空洞のメガフロートを保有する静岡市が貸与。翌年に5億円で譲渡した。
 その後、メガフロートが津波漂流物となり周辺を損傷させるリスクが指摘されたため、18~21年度に対策工事を実施。内部にモルタルを詰めた上で海底から固定し、護岸の荷揚げ場として整備した。

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