訪日客を静岡県内へ 観光再開で業界準備加速 感染対策万全期す

 訪日外国人客の受け入れ手続きが10日、再開されたことを受け、静岡県内の観光・宿泊事業者が態勢の構築に向け奔走している。施設の改装や外国語の案内文作成を急ぐなど、2年にわたり新型コロナウイルス禍の打撃を受けてきた事業者は「他県との客の奪い合いになる。一人でも多く本県へ」と感染抑止対策と併せた挽回策を練る。

旅館内に新設した茶道などの文化体験スペース=3日午後、焼津市の「月と鮪 石上」
旅館内に新設した茶道などの文化体験スペース=3日午後、焼津市の「月と鮪 石上」


 焼津市の旅館「月と鮪(まぐろ) 石上」は今月上旬、2階に茶道や利き酒の体験スペースを設け新装オープンした。海沿いの眺望も人気で、10年ほど前からフランスや中国の家族旅行者が宿泊。マグロ料理や和室での就寝など日本文化に触れる機会を提供してきたが、コロナ禍でその機会は失われた。女将(おかみ)の石上智子さんは「来日を心待ちにしていた顧客を十分にもてなしたい」と意気込む。
 コロナ禍前は利用客の3、4割が訪日客だった伊東市の旅館「陽気館」の稲葉明久専務は「物価高で国内消費が落ち込む中、受け入れ再開はありがたい」と期待する。自社の英語版ウェブサイトに感染対策の協力を求める文面を掲載し、宿泊予約サイトの訪日客用プランを更新するなどの作業に追われる。
 稲葉専務は今後の外国人個人客の受け入れ解禁も視野にガイドラインの早期制定を県に求める。「観光立県として後れを取らぬよう県が業界をリードしてほしい」と注文する。
 「のどから手が出るほど待ち望んでいた」と喜ぶのは藤枝市の旅行会社「ワールドフォース」の加藤広司事業本部長。コロナ禍前は顧客層の7、8割を訪日団体客が占めていたため、大きな打撃を受けた。5月上旬からアジア圏からの問い合わせが増え、「コロナ前並みの見積もり対応で忙しい」と声を弾ませる。本格的な来県は秋以降とみて、観光・宿泊施設と情報共有しながら準備を進める。
 浜松市中区のホテルクラウンパレス浜松は「団体客が訪れた場合は食事会場を個人客と分ける」と感染対策にも万全を期す。コロナ禍の苦境で従業員が2、3割減っているという。担当者は「今後の客の増加は期待したいが、社内の人繰りも必要になる」と話す。
 (経済部・駒木千尋、浜松総局・白本俊樹)

<メモ>観光庁によると、10日から政府が受け入れ手続きを始めた訪日客は、入国から出国まで添乗員が同行するパッケージツアーのみが対象。アメリカや中国など感染リスクが低いとされる98カ国・地域に限定し、1日当たりの入国者数上限2万人の枠内で受け入れる。添乗員には観光客に対し、マスクの着脱といった感染防止策の指導や注意喚起の実施を求める。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞