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土砂は神奈川から 規制緩く「捨て賃」に差【残土の闇 警告・伊豆山㉔/第5章 繰り返す人災①】

 「伊豆山赤井谷残土処分場」。大規模崩落によって土石流を引き起こし、熱海市伊豆山の集落をのみ込んだ「盛り土」は県や市の行政担当者の間でこう呼ばれていた。残土は工事で発生する土砂。残土処分場には2009年から10年にかけて膨大な量がダンプカーで運び込まれ、表面上は「盛り土」に成形された。しかし、問題の本質は「盛り土の実態が、捨てるだけの残土だったこと」(静岡産業大の小泉祐一郎教授)だった。では、残土はどこから持ち込まれたのか。

 小田原、二宮、平塚、茅ケ崎、藤沢、横浜…。工事関係者への当時の聴取内容が残る静岡県や熱海市の公文書をたどると、搬入元として神奈川県の複数の地名が登場する。残土処分場を監視する静岡県職員が作った10年10月13日の文書には、業者が示した残土チケットの写しが描かれ、「現場名 小田原」と記されている。ダンプカーは神奈川県の相模ナンバーで、「搬入元を聞くと国府津(小田原市)と言った。それ以上は答えてもらえず」ともある。
 発災後に静岡県が盛り土を調べたところ、神奈川県二宮町の指定ごみ袋も見つかった。静岡大などの土砂分析では、盛り土の土砂は神奈川県の相模川下流や中村川下流、相模湾沿岸部の東部など、複数箇所から運び込まれていた可能性が判明し、物的証拠が県境越えを裏付ける。
 土砂はなぜ、神奈川から県境を越えたのか-。伊豆山の盛り土造成に関わった工事関係者の一人は「神奈川の業者は、静岡の『捨て賃』が安いと知っている。神奈川は防災工事をきちんと指導する。静岡は規制が緩いし、場所もあるから」と明かした。
 残土処分ビジネスを手掛ける業者は、土砂の排出業者や中間処理業者から一定の金額で受注し、ダンプカーを使って土砂を運搬、処理する。捨て賃は安いほど利益が出る。ダンプ労働者でつくる全日本建設交運一般労働組合(建交労)が昨年秋に調査したところ、ダンプ1台当たりの捨て賃は神奈川県の1万7千円に対し静岡県東部は6千~1万円。県境を越えるとほぼ半額になる。建交労東海ダンプ支部の高橋立顕書記長は「個々に状況は異なるが、捨て賃は県ごとの規制の違いも反映する」と指摘する。
 神奈川県は1999年、旧城山町(現相模原市)で伊豆山の50~60倍に当たる約400万立方メートルの残土が谷に埋められた事件をきっかけに条例を制定。国内最大規模の不法投棄を受け、工事現場や仮置き場から500立方メートル以上の土砂を搬出する際に届け出を求め、土砂搬入禁止区域を指定できるようにするなど厳しい内容とした。
 一方、神奈川県に接する伊豆山の盛り土に適用された静岡県土採取等規制条例は75年、ゴルフ場や宅地などの開発抑制を目的に作られた。ただ、業者に地元説明会や定期施工報告などは義務付けなかった。条例制定に携わった元県職員(86)は「土砂の投棄は想定していなかった。乱開発の歯止めになったが、半世紀たてば時代は変わる」と条例改正や法規制に踏み込まなかった行政対応を悔やむ。
 「利益しか考えてないよ」。伊豆山の盛り土造成に関わった工事関係者に捨て場所を選ぶ基準を問うと、吐き捨てるように答えた。全国一律の法規制がないまま、県ごとに生じた規制の格差。その間隙(かんげき)を突く業者の損得勘定によって、残土は県境を越えた。
      ◇
 野放しにされていた残土ビジネスの一端が伊豆山の土石流で浮き彫りになった。国、静岡県、熱海市の行政は、なぜ利益至上主義の業者を止められなかったのか。人災を繰り返さないために考える。
 >首都圏発展の陰で 副産物、条例逃れ地方へ【残土の闇 警告・伊豆山㉕/第5章 繰り返す人災②】

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