参院選争点 改憲の要否を問う 有識者3氏インタビュー 

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本国憲法で戦争放棄などを定めた9条や、有事の際に政府権限を強化する緊急事態条項新設などを巡る議論が衆院憲法審査会で活発化している。岸田文雄首相(自民党総裁)は9条改正に意欲的で、6月22日公示が有力な参院選でも争点の一つになる見通しだ。平和憲法を堅持すべきか、時代に即した形に変えるべきか-。異なる意見を持つ有識者3氏に改憲の要否について聞いた。(聞き手=社会部・瀬畠義孝)

河村正史氏
河村正史氏
輿石逸貴氏
輿石逸貴氏
吉崎暢洋氏
吉崎暢洋氏
河村正史氏
輿石逸貴氏
吉崎暢洋氏

 

9条の拡大解釈に懸念 弁護士・河村正史氏


 ロシアがウクライナを侵攻したから「日本も憲法改正が必要だ」という理屈は乱暴だ。憲法は感情や情緒で変えるべきではない。
 自衛隊は既に存在し、災害時に頼りにされ、大半の国民は自衛隊の存在を認めている。憲法9条は現行のままでいい。自衛隊を明記すると拡大解釈が進むことが懸念される。
 政府は2014年に憲法解釈を変更し、それまで認めていなかった集団的自衛権の行使を限定的に容認した。だが9条に集団的自衛権の概念を持ち込むと、解釈次第で自衛権が無限に広がってしまう。自衛権発動で戦争に加担する状況が生まれ、他国に日本を攻撃する口実を与えることになる。日本がこれまで平和憲法で諸外国から得てきた信頼を失うことになりかねない。
 「現行憲法は時代に合ってない」と言われるが、行政や国会に支障が出ている状況ではない。自民党が新設を提案する緊急事態条項も、既存の法律で対応できている。同条項を新設することで、国民の人権が厳しく制限されることが心配だ。憲法は権力が暴走しないよう制限していることを忘れてはいけない。

 かわむら・まさし 県憲法九条の会世話人。ときわ総合法律事務所(静岡市葵区)所属。島田市出身。74歳。
 

集団的自衛権の明記を 弁護士・輿石逸貴氏


 戦力不保持を定めた憲法9条2項は自衛隊の存在と矛盾し、自衛隊が憲法違反になっているので削除すべきだ。自衛隊は必要な存在で、明記すべきだが、9条2項を残したまま自衛隊を明記する自民党改正案はおかしい。
 ロシアのウクライナ侵攻で日本も他国による武力侵攻を想定する必要性が高まった。日本国民も集団的自衛権の必要性を再認識し、戦力不保持の建前はもう維持できないと気付き始めた。集団的自衛権は国連憲章に定められた当然の権利で、憲法に明記してよい。
 自民党案の緊急事態条項は大規模災害を想定するが、感染症や武力侵攻にも適用すべきだ。だが要件を詳細に定義するのは臨機応変に対応できなくなる恐れがあり反対だ。現行憲法も公共の福祉のため国民の権利を必要最小限度は制限できるが、有効な対策を速やかに打てない。緊急事態条項は必要だろう。
 国が同条項を乱用しないよう効力の期限を明記したり、緊急事態が妥当か審査する憲法裁判所を設けたりしてよい。憲法で政府の権力を制限し、国民の権利を守る「立憲主義」を崩してはいけない。

 こしいし・いつき ひのもと法律事務所(富士市)代表弁護士。県弁護士会、憲法学会所属。富士市出身。35歳。
 

乱用防止へ歯止め規定 常葉大教授・吉崎暢洋氏


 自民党の憲法改正案は主に現状を追認する内容だ。憲法9条2項は「戦力不保持」を定めているが、既に自衛隊は存在する。現行憲法に緊急事態条項はないが、既に災害対策基本法や武力攻撃事態法などで緊急事態を規定している。改憲をするなら新たな国の在り方を問う議論が必要だ。
 憲法は国の権力を制限し、国民の権利を保障する規範。だが自民党案は権力の制限を解除し、強化しようとしている。憲法の緩みは国内外で国家権力の暴走の引き金になった。乱用されないよう歯止め規定が重要になる。
 自民党案は自衛権を明記しているが、個別的自衛権か集団的自衛権かはっきりしない。どういう場合に自衛権を行使し、どこまでが必要最小限度の実力行使なのか不明確だ。集団的自衛権を含むなら、行使する条件を明記することが必須だ。
 今の憲法も自民党案も「法律の定めるところにより」という記述が多い。後から法律で何とでもなるというやり方は望ましくない。緊急事態条項を設けるなら、どのような事態が対象で、どういう人権がどこまで制限されるのか明記すべきだ。

 よしざき・のぶひろ 常葉大法学部長、教授(憲法学)。姫路独協大教授などを経て現職。山口県出身。62歳。

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