僕は弱い人間です。でも「決して逃げません」 清水エスパルス・山室晋也社長㊦【五郎丸歩が学ぶ~ビジネスの流儀~⑥】

 ラグビー球団の社長を目指す日本ラグビー界のレジェンド、五郎丸歩がさまざまな経営トップと対談する「五郎丸歩が学ぶ~ビジネスの流儀~」。今回も清水エスパルスの山室晋也社長です。輝かしい実績を上げ、「リアル半沢直樹」と呼ばれるほどの華麗なる銀行マンから一転、「どんなに赤字でもいいから、火中の栗を拾うような仕事をやってみたい」と、赤字続きだったプロ野球 千葉ロッテマリーンズの社長に就任し、球団創設以来の最多観客数を達成、初の黒字へと導きました。清水エスパルスでもコロナ禍でありながら黒字経営。あなたの人生にも役立つ、目からウロコなビジネスの「流儀」を学びます。(進行/SBSアナウンサー 重長智子)


率先垂範 意識改革はトップから


 山室さん アイスタ(IAIスタジアム日本平)って、常に350〜400人ぐらいの人が働いているんです。そういった人たちに、「ファンをとにかく大事にしろ」とか「おもてなしの心でやりなさい」とか私が言ったところで、せいぜい50人が「社長がそんなこと言ってたかな」くらいしか届きません。僕が(現場に)行ってやれば、300人以上のスタッフが見ているし、同じようにやらないといけないと思ってくれるわけです。「清水エスパルス」のブランドはみんな知っていますけど、その伝え方や取り組みが下手だった。別の言い方をすると、甘えていた。自分たちの持っているブランドをもっと輝かせないといけないんです。単にボヤーっと「サッカー王国 清水」と言ってみても、いったいそれは何なのか。「地域に愛される」って、結局何なのか。言葉ではなくて、具体的に示さなければいけないと思います。そこがちょっと欠けていた。

 開場時の出迎えは、千葉ロッテ時代から続けているルーティーン。これには副産物も。ファンから「トイレが汚い」「鳥のフンが落ちてくる」など、生の声を聞くことができ、ファンサービス向上にもつながっているそうです。


ライトなファンを取り込む


 山室さん ファンといっても非常に幅広い。コアなファンの声は、一番球団に届きやすいんです。以前から(何度も)来ていただいていますから。でもその何倍も、ライトなファン、カジュアルなファンがいる。そういった方たちの、なかなか声にならない意見をいかに吸収していくかがすごく大事だと思っています。コアなファンたちは喜ばなくとも、カジュアルな人、ライトなファンにとってうれしいサービスもどんどん増やす。ライトなファンが増えると、コアなファンの人たちも仲間が増えて、結果的には喜ぶんです。球団の中では最初、「(ライトなファンを重視したら)コアなファンたちが逃げちゃいますよ」という議論があったんですが、コアなファンたちと話してみると「ファンを増やすために(ライトなファンがよろこぶことを)やらなきゃダメですよ」という人が多かった。

 五郎丸さん ラグビーでは、50代の人たちがメインのお客さんで、サッカーや野球と比べると年齢層が高めです。場内を賑やかにすると若者たちは喜びますけど、オールドファンたちからは「これはラグビーじゃない」という声が出てきます。その辺のバランスをうまくとりながらやっていかなくてはいけないと思っています。


 どんなコアなファンでも、誰もがはじめはライトなファン。つまり、ライトな層を取り込むことが、その裾野を広げると山室社長は考えます。

 重長さん 先日、千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手が完全試合を達成しましたが、そういった「スーパースター」を生み出すのも大事なファン作りのポイントですよね。

 山室さん ものすごく大事だと思います。私のマリーンズ時代の大きな課題は、球団の顔になる選手がいない、スーパースターがいないことでした。「巨人といえば王・長島」とか「ヤマハといえば五郎丸」とか。スターが1人出ることによって、カジュアルなファンが集まってくる。そこを中心にしてファンを徐々に増やすことができます。甲子園の人気がプロ野球につながる仕組みは、すごく成功したモデル。サッカーの場合、高校サッカーは盛り上がるのに、そこでいったん途切れてしまうのがもったいない。ラグビーも、すごく人気がある高校ラグビーからプロラグビーへとうまくつながっていく仕組みができるといいと思います。

 五郎丸さん ラグビー界は、サッカーのように移籍が頻繁に起きない。選手の獲得方法もルール化されていない。野球でいえばドラフト制度がありますし、この辺はリーグ全体で整えていって、選手たちが均等に各チームに分かれるようにしたいですね。仕組み作りをやっていかないと、ラグビーを盛り上げていくのは難しいと思います。

スタジアムの飲食店にも競争原理


 スタジアムの飲食店の売り上げは球団にとって大きな収入源です。そこにも銀行員を経験した山室社長だからこその考えがあります。

 山室さん 長くお付き合いしている業者が多いですけど、私の銀行時代の経験からすると、飲食の業界はものすごく競争が激しい。そういう厳しい業界で揉まれてきている会社に入っていただくのは、ファン、サポーターにとってより良いグルメを提供するためです。売り上げ、接客サービス、オペレーション、当然衛生面がしっかりしているかなどを定量的に評価して、「ちょっと衛生面で課題がある」とか「売上が全然上がらない」とかいうところは、入れ替えの対象にしています。逆に、成績がいいところは一等地に出ていただいて、収益を極大化してもらうなど工夫しています。

 五郎丸さん 飲食店さんとシーズンで契約できる。これがスタジアムを持っているチームの強さです。年間契約できるんですよね。ラグビーの場合は、IAIスタジアムを使わせていただいたり、ヤマハスタジアムを使ったり、エコパを使ったりで、自分たちのホームでありながら3スタジアムを使わなくてはいけないので、そもそも年間の契約ができない。売り上げも立たないですし、毎回毎回交渉することになるので、なかなか難しいなと感じます。ただそこは観客にとっては関係ない話です。


インパクトのある演出も重要


 静岡ブルーレヴズは3月、清水エスパルスのホームである静岡市のIAIスタジアム日本平で、リーグワンの試合を初開催しました。ハーフタイムには、五郎丸さんが演出を考えたバイクによるパフォーマンスが試合を盛り上げました。

 五郎丸さん 普通のスタジアムだったら絶対使わせてもらえない。「お客さんのところを(バイクが)走るなんてダメです」「スタジアムも傷つけるし」という点で。山室さんから「走っていいよ」とお墨付きをいただいて、やっと実現できました。

 山室さん 非常に面白いなと。エスパルスの試合のときもできないかと思いました。さらに進化させなきゃいけないですけど。インパクトがあることをやらなきゃダメです。

 五郎丸さん 来季もぜひ日本平でラグビーをやらせてほしいと思っています。

 山室さん われわれはウェルカムです。1試合じゃなくて何試合もやってくださいと、こちらからセールスしたような状況ですから。アイスタの芝生は高く評価されているので、一部のファンやサポーターの方から「芝生は大丈夫なのか」という声もあったんですけど、結果的には全く問題なかったです。ぜひ、アイスタをサッカー、ラグビーのメッカにしてもらいたいと思っています。

 五郎丸さん ラグビーをやると芝生が荒れると言われるので、あまり好まれないんですが、芝を管理されている責任者の方は「それを(正常に)戻すのが自分たちの仕事だから」と言ってくださって。本当に綺麗な状態でラグビーをさせてもらいましたし、エスパルスさんが使うときにはきちんとサッカーの状態に戻っていた。プロフェッショナル(の仕事)だと思いました。

 山室さん サッカーの試合が終わった翌日は、ピッチがちょっと荒れた状態なので、「そういった状態でもいいですか」と五郎丸さんに確認したら、「われわれは与えられた条件で、どんな芝生でもやりますから全く問題ないです」と。「どんな環境でもやるのがラガーマンです」と、かっこいいことを言っていただきました(笑)。


課題はスタジアムへのアクセス


 山室さん アイスタへのアクセスが非常に悪いのが、私の一番の悩みごとです。千葉ロッテ時代も12球団で最もアクセスが悪いのが一番の経営課題だった。駅から歩いて15分、その駅まで東京駅から40分かかるんです。人口が多いところからものすごく遠い。だから、午後6時の試合開始には集まれないというのが課題でした。アイスタに来て、(ZOZOマリンスタジアムは)なんて素晴らしい球場だったんだろうと思うぐらい、(アイスタは)アクセスが悪い。より広域からファンの方に来ていただこうと思うと、アクセスの悪さは大きなネックです。

 五郎丸さん ヤマハスタジアムもさほど(アクセスが)良いとは言えないですが、最近、磐田駅と袋井駅の間に新しく駅ができて、そこから歩いて10分かからないくらいです。歩いて来場される方が増えたので、その道中ジュビロ磐田と静岡ブルーレヴズの旗をずっと交互に掲げるなどしています。

 重長さん JR清水駅前に新しいスタジアムの建設構想が浮上していますね。

 山室さん 静岡県知事や静岡市長、(市民の)皆さんからも非常に前向きなメッセージをいただいていて、機運は盛り上がっていると思います。でも、場所も決まっていませんし、お金がどのぐらいかかるか、それを誰が負担するのか、誰が運営するのかも含めて、これからがものすごく大事な時期になってきます。駅の前にスタジアムがあることは、大きなメリットです。あとは周辺人口。半径30キロくらいのところに多くの人口があれば、スタジアム運営上はメリットが大きい。ただ、サッカーの試合もラグビーの試合も、年間の試合数が少ないので、多目的なスタジアムによって街全体が賑わう仕組みをしっかり作っていかないといけない。

 五郎丸さん スタジアムはその地域を活性化させるためにあると思うんですが、今後清水を元気にしていくための取り組みは考えていますか。


 山室さん 芝生の問題さえなければドーム型のスタジアムにして、全国ドームツアーなどコンサートをやったり。そうすれば稼動が365日になり、世界中、日本中から人が集まってくる。富士山をバックにしたスタジアムは、すごく絵になります。クルーズ船が来て、そこで一流アーティストのコンサートやサッカーの試合、ラグビーの試合が見られるとなれば、静岡は一地方じゃなくて、全国的な場所になります。

スタジアムの指定管理者になった意義


 山室社長はエスパルスの社長就任以来、IAIスタジアム日本平の指定管理者を目指し、去年4月、正式に静岡市から管理を任されています。これはスタジアムを活用したビジネスチャンスを増やすのが狙いです。

 重長さん 指定管理者になったメリットは?

 山室さん 多くのメリットがあります。一つは、新スタジアムへの管理運営のノウハウ(の蓄積)。自分たちで管理運営しているがゆえに、新しいスタジアムができたときに「こういうスタジアムにしたらもっとファン、サポーターに喜んでもらえる」と考えることができる。これが大きな狙いの一つでした。それと、行政の許可の範囲内ですが、非常に自由にスタジアムが利用できる、管理できるという面。先般のブルーレヴズの試合のように、利用者にどのように(スタジアムを)使っていただくかとか、民間の知恵、民間の活力をスタジアムに注ぎ込むことができるという意味で、非常に意義があることだと思っています。

 五郎丸さん ラグビー界でスタジアムを持っているチームはゼロです。われわれはジュビロ磐田と共に使っていますけど、自分たちのスタジアムかと言われると、どうかなと。これから10年、20年というスパンでプロリーグをやっていくのであれば、方向性はしっかり考えていかなくちゃいけないと思います。


リーダーは「逃げない」


 山室さん 「逃げない」。僕は基本弱い人間で、あまり能力がないのはわかっているので、ついつい逃げたくなるんです。でもトップが逃げたら全てが壊れてしまう。トップは、ものすごく高い結果責任を求められますけど、必ず果たさなければいけない。結果から逃げてはいけないと思っています。いろんな困難な仕事が来ますが、絶対逃げられないと思って仕事に取り組んでいます。だからといって、どんなことも自分でやるわけではない。あえて勇気を持って部下に任せる。これもある意味「逃げない」ことで、その部下の負った責任からも逃げない。人に任せて責任を取る。自分の判断でやったこと、会社の成績、結果について「逃げない」というのを、私の流儀にしています。

 五郎丸さん ラグビーの場合は逃げられないですからね(笑)。来たらぶつかりに行くという共通点を感じます。経営者の立場で逃げないというのは、本当に勇気がいることです。ラグビー界は、やっとスタートを切った段階です。Jリーグには30年という歴史があり、西部にはジュビロ磐田が、中部には清水エスパルスがあります。大先輩たちがいるので、わからないことはしっかりとアドバイスをもらいながら、ラグビー界を盛り上げていけるように頑張っていきたいと思います。


 山室晋也(やまむろ・しんや)さん 株式会社エスパルス 代表取締役社長。立教大学を卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行。2011年から執行役員、13年みずほマーケティングエキスパーツ代表取締役社長。その経歴から「リアル・半沢直樹」とも言われる。同年、千葉ロッテマリーンズ顧問を経て、14年に社長就任。営業利益マイナス25億円(着任前の直近5年間の平均)の同球団を、6年間で「創業以来初の単体黒字」「売上1.8倍」「球団創立以来最多観客数」に導く。20年より現職。1960年三重県生まれ。62歳。

 五郎丸歩(ごろうまる・あゆむ)さん 元ラグビー日本代表選手。1986年生まれ、福岡県出身。ヤマハ発動機ジュビロの主力選手としてチームを長年牽引。強豪南アフリカから大金星を上げた2015年のワールドカップで活躍し、ラグビー人気の火付け役となった。フランス1部リーグでもプレーし、21年シーズンをもって現役を引退。現在はラグビーリーグワン1部「静岡ブルーレヴズ」のクラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)としてファンづくりに奔走する。

 次回(5月28日予定)は、年商130億円、およそ半世紀黒字経営が続く総合商社の女性社長から学びます。社員の潜在能力を最大限に引き出す驚きの経営術とは。

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