華麗なる「リアル半沢直樹」のルーツ 清水エスパルス・山室晋也社長㊤【五郎丸歩が学ぶ~ビジネスの流儀~⑤】

 ラグビー球団の社長を目指す日本ラグビー界のレジェンド、五郎丸歩がさまざまな経営トップと対談する「五郎丸歩が学ぶ~ビジネスの流儀~」。今回のゲストは、清水エスパルスの山室晋也社長。輝かしい実績を上げ、「リアル半沢直樹」と呼ばれるほどの華麗なる銀行マンから一転、「どんなに赤字でもいいから、火中の栗を拾うような仕事をやってみたい」と、赤字続きだったプロ野球 千葉ロッテマリーンズの社長に就任し、球団創設以来の最多観客数を達成、初の黒字へと導きました。清水エスパルスでもコロナ禍でありながら黒字経営。あなたの人生にも役立つ、目からウロコなビジネスの「流儀」を学びます。(進行/SBSアナウンサー 重長智子)

 五郎丸さん 「リアル半沢直樹」。その背景が本当に気になるんですが、銀行に入ったきっかけは何かあるんですか。

 山室さん いろんな会社が見られる。どこの業種も取引があるものですから。いずれ経営者になりたいなという希望があった。いろんな勉強になるからいいなというのがきっかけですね。

 五郎丸さん 入行されてすぐ結果を出されたんですか。

 山室さん いや、ダメ銀行員の典型でした。銀行は昔、入ると最初、窓口とかいろいろやらされたんです。私が窓口に出ると、1万円を払い出しに来たお客さんに10万円払っちゃったりとか。公共料金や税金の納付があったときに、お客さんに返さなければいけない領収書を手元に置いて、銀行で預からなきゃいけない通知書や納付書をお客さんに渡してしまうとか。ですから、窓口が閉まった後は、そのお客さんの家を探して、交換してもらいにいったりですね。僕が30分間窓口に出ると、そのあと半日ぐらいそういった仕事ができてしまうということで、もう1カ月ももたなかったですね、その仕事は。

 五郎丸さん じゃあ、営業に行かれたりとかは。

 山室さん 基本、営業でしたね。営業に行ってもまともに話せなかったんですけれど。何を喋っていいかわからなくて。


 輝かしい実績からは想像しがたい銀行員生活のスタートだった山室社長。営業マンとして外回りをするようになると、だんだんと営業のコツをつかみ、それ以来、結果が出るようになった。

営業は相手の話を聞くことに徹する



 五郎丸さん 私もこの職に就いて営業に何度か行っていますが、緊張しますね。
試合は全然緊張しないんですけれど。相手を不快にさせないためにどうしたらいいかとか、失礼がないかとか正解が分からない。コツがあれば教えていただきたいなと。

 山室さん 私も元々シャイで口下手だったので、営業に出たときもすごく悩みました。いろいろ勉強して、営業は自分が喋るのではなく、お客さんが喋りたいことを聞くのが仕事だとか徹底的にお客さんのことを聞こうとやってみた。事前にどんなことに興味あるのかなとか情報を集めてその話題を振ってみるとか。当たり障りのない、天気とか経済の話とかでいろいろ探りを入れて、ちょっと興味や反応したところについて、深掘りして質問形式で聞いて。とにかく気持ちよく喋ってもらうように仕向けていきました。

 五郎丸さん 選手時代は、自分をアピールしなければいけない立場だったので、相手を気持ちよくさせることとかあまり考えなかったですね。こういう(経営する)立場になったことで一歩引いて、相手にどう意見をしてもらうか、向こうが気持ちよくなって話していただけるようにどうやったらいいかというのは、常日頃から考えるようになりました。

 銀行の営業マン時代は、取引先には3回目の訪問までは一切セールスをしないと決めていた山室社長。雑談をすることで相手を知り、自分のことも知ってもらった上で、4回目にセールスをかけていた。

 山室さん 「とにかくこの人と親しくなりたい」と。そういう気持ちでいくと、向こうも「あまりこいつビジネス話をしてこないな」ということで、まず心を開いてもらえる。初対面から「スポンサーやってください」とか言ったら、だいたい(心の)シャッターを下ろされてしまいます。五郎丸さんとラグビーの話やスポーツの話をしたいと思ってる人は絶対にいるので、ラグビーに興味がなくても、野球の話でも何でもいいと思いますよ。

組織はスポーツチームのつもりで



 山室社長は41歳のとき、同期の中では最速で支店長に昇進。在任中、17期中15期で社内1位の成績を残すなど、組織のトップでも結果を残した。

 山室さん 上野とか渋谷中央とかの支店長だったんですけど、自分たちのことを「うちの支店は」という言い方ではなくて、「チーム上野」とか「チーム渋谷中央」とか、そういう言い方をしていました。われわれはスポーツチームだと。「優勝するために、みんなでフォーメーションを組んで戦っていこう」というノリで、楽しくゲーム感覚で仕事をやっていこうとしていました。みんなを巻き込んで、「表彰=優勝」を目指してみんなでやっていこうという形。ノルマを課してギリギリ追い込んだりとかではなくて。「君はこのポジションでこの成果を上げてくれた」「君はこのポジションだから、こういうことをやってくれ」というふうに、役割を決めてですね。で、みんなの力で優勝できたと。


 かつて上司から厳しく指導を受け、萎縮することもあったという山室社長。上司は特に褒めることもなく、できて当たり前という態度だった。そんな環境では、メンバーのモチベーションは上がらないと考え、組織のトップである自分が張り切るのではなく、メンバー1人1人が楽しめるチーム作りを心がけた。

 五郎丸さん 名前の呼び方とか、自分たちはチームなんだよっていうのを、常々共通言語として持っておくのは本当に素晴らしいことだと思います。

 山室さん 私が支店長をやったときは、いつも笑いが絶えないといいますか、くだらないオヤジギャグとかをみんなで言って、失敗してもみんなで軽くからかったりしてですね、あんまり暗さはなかったです。常に明るく前向きにやっていく、スポーツライクでやろうと。僕はよくからかわれたんです。朝のミーティングでよく居眠りするんですよ。会議の最中に。「支店長、また寝てますね」と。クリアファイルの上から印鑑押してしまったりとか。そんなことやって、部下からからかわれて、というくらいの、ざっくばらんな雰囲気でやっていたと思います。

 五郎丸さん 今のブルーレヴズで社長をしている山谷(拓志)は、前職はバスケなどをやってきていて、山室さんに近い。やわらかく、すごく明るくて、みんなが相談しやすい、お父さんみたいな感じ。社員が1人で悩むのではなくて、相談できる環境作りって大事ですね。

現場の生の声に経営のヒントがある



 山室社長がトップに就任して必ずやることは、社員1人1人へのヒアリング。

 山室さん 社長とか支店長になると、情報がどうしても加工されて、スクリーニングされて来るんです。都合のいい情報しか上がってこなくなってしまう。現場の感覚、感性が鈍ってしまうので、生の声を聞くことで、状況がよくわかるようにしているんです。決してその人たちの意見をそのまま採用したりするわけではないんですけど、自分で仮説を立てて、「彼らはこういったことをやったら多分反対するだろうけれども、理解してくれそうだな」とか。こうしなきゃいけないなとか確信できるという面でも、僕は必ず(ヒアリングを)やるようにしてます。いつもその中でいろんなヒントをもらったりするんですよね。自分がいろいろ考えたり、いろんな人に聞いたり、勉強してもわからないようなことが、意外に足元に転がっていたりして、「なんだ、こんなことなのか」って気づかされることも何度かあったりしてですね。貴重な機会ですね。

 現場の生の声を拾おうと、エスパルスの事務所では社長室は使わず、他の従業員と同じ大部屋で仕事をしている山室社長。高度な経営判断をする上で多くの情報があるからこそ、自分の判断に自信が生まれると考えているという。

 山室さん 大部屋で仕事をしているだけで、自然にいろんな生の情報が入ってきます。隅の方で何かトラブっていたり、かたや歓声が上がっていたり、もう一方では非常に元気がなくなったりしていて、加工されてない生の情報が入ってくる。社長室にこもっていて、報告に来る人の話だけ聞いていたら、絶対に判断を誤ると思います。

 五郎丸さん これは千葉ロッテマリーンズのときもやられていたことなんですか。


 山室さん そうですね。僕は銀行からスポーツエンターテイメント業界へ移ったことで、全く真逆の業界とは言わないですけれど、全然わからなかったってのもあるんです。ですから、何でもいいから教えてくれという姿勢で、従業員からいろいろ話を聞きました。スポーツ業界って、(そのスポーツが)好きな人が入ってきてるじゃないですか。ラグビーが好きだったり、野球が好きだったり、サッカーが好きだったり。そこで自己実現というか、いろんな夢を持っている人間が結構多いんです。彼らを動かすのは何だろうかなって思うと、それを実現させてあげれば、もう勝手に仕事してくれる。基本的に、自分がやりたいことができる、自己実現できるというのは、ものすごいパワーなんですよね。

 新型コロナの影響で思うように観客数が増えないというピンチも、「山室流ビジネスの流儀」で乗り越えようとしてきた。チケットが売れなければグッズを売り込もうとタッグを組んだのが、アメリカのスポーツグッズメーカー 「ファナティクス」。世界の野球やサッカー名門チームなどのグッズ企画から製造販売を手がける世界最大手企業との連携で、去年からスタジアムのグッズ売り場面積を以前の5倍以上に拡大、商品数も大幅に増加した。

 山室さん 一番喜んでいただいてるのが、ファンの皆さんが好きな番号やスタンプを、ご自分が持っているトートバッグであったりユニフォームであったり、その場で加工できるサービス。自分の名前を入れられる方もいらっしゃいますし、プレゼント用にオリジナルのものを作る方もいて、非常に人気です。

 五郎丸さん 私も視察させていただきましたけれど、スタジアムのグッズの横に圧着機があって、ユニフォームだけじゃなくてジャージに加工できたりとか、いろいろ自分でカスタマイズできるんですね。ファンにとっては堪らない。

 山室さん ユニフォームは(一般的に)スタジアムで応援するときに着るんですけど、普段使いできるアパレルはものすごく需要が大きいですね。何気なく着ているけれど、どこかにエスパルスのマークが入っているとか、いつもエスパルスのグッズを身に着けているという、ファンとしての満足感を感じることができる。


 その場で自分のオリジナルグッズができるなど、迅速なサービスが武器に。今までのオンラインショップでは、注文から届くまでに5〜7日程度かかっていた。、ファナティクスとの提携後は、最短で翌日に届くように。新たなグッズ戦略により、2021年の1年間でグッズ収益は前年の6倍、コロナ禍前と比べても1.6倍に伸長した。

 五郎丸さん プロ野球とJリーグも経験されています。競技の違いだとか、ファンの違いだとか、いろいろあると思うんですが、難しさはありますか。

 山室さん プロスポーツビジネスということで、共通点は多いですが、プロ野球の場合はエンターテイメント性が非常に強い。サッカーとかラグビーは、競技性が強いと言ったらいいのか、ストイックって言ったらいいのか。そこから起因するところのビジネスの難しさがあるのかなと。プロ野球は降格がないから、ある程度後半戦、来年のために若手を育てる運営もできました。サッカーの場合は降格があるので、必死になってそこにお金をつぎ込んで、赤字になろうが戦わなければいけない。もうそこは昨年、身をもって厳しさを感じました。

 重長さん そのあたりはリーグワンも、似ていますか。

 五郎丸さん 昇格、降格もありますので、そういう意味ではJリーグに近いのかなと思います。まだまだサッカー、野球には手が届かないところにいますので、しっかりと大きな目標を持ってやっていくしかないですね。

 今年、エスパルスの社長として3年目のシーズン。今後の展望は。

 山室さん どんなにハードルが高かろうが、優勝は常に目指していかないといけない、どんなに距離があっても、プロスポーツをやる以上、トップを目指していかないといけないと思っていますので、これから大逆転を狙っていきます。エスパルスというクラブを、とにかく“地方のクラブ”じゃなくて“全国ブランド”にしたい。「静岡県出身です」と言ったら「エスパルスのファンなんですね」と言われるぐらいの全国ブランドのクラブにしたいです。

 「率先垂範して、お客様を大事にするおもてなしってのはこうやらなきゃいけないんだよ」と、ホームゲームでは必ずファンを出迎える山室社長。その訳とは—。次回(5月21日予定)は、ファン拡大、黒字経営の秘訣に迫ります。

山室晋也(やまむろ・しんや)さん 株式会社エスパルス 代表取締役社長。立教大学を卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行。2011年から執行役員、13年みずほマーケティングエキスパーツ代表取締役社長。その経歴から「リアル・半沢直樹」とも言われる。同年、千葉ロッテマリーンズ顧問を経て、14年に社長就任。営業利益マイナス25億円(着任前の直近5年間の平均)の同球団を、6年間で「創業以来初の単体黒字」「売上1.8倍」「球団創立以来最多観客数」に導く。20年より現職。1960年三重県生まれ。62歳。

五郎丸歩(ごろうまる・あゆむ)さん 元ラグビー日本代表選手。1986年生まれ、福岡県出身。ヤマハ発動機ジュビロの主力選手としてチームを長年牽引。強豪南アフリカから大金星を上げた2015年のワールドカップで活躍し、ラグビー人気の火付け役となった。フランス1部リーグでもプレーし、21年シーズンをもって現役を引退。現在はラグビーリーグワン1部「静岡ブルーレヴズ」のクラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)としてファンづくりに奔走する。


 

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