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防潮堤越す津波想定 審査前進へ中電苦渋の提示【浜岡原発停止11年 揺らぐ思惑㊦】

 「きりがない。なぜ数字が一度で決まらないのか」。中部電力浜岡原発が立地する御前崎市佐倉の自営業の男性(64)は、原発に押し寄せる津波の想定と防潮堤の高さを巡るこれまでの変遷を振り返り、複雑な表情を浮かべた。

中部電力浜岡原発の敷地前面に立つ海抜22メートルの防潮堤=7日、御前崎市佐倉(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
中部電力浜岡原発の敷地前面に立つ海抜22メートルの防潮堤=7日、御前崎市佐倉(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)

 東京電力福島第1原発事故から約4カ月後の2011年7月、中電は海抜18メートルの防潮堤の建設を発表した。その後、内閣府による最大19メートルの津波想定を受けて4メートルのかさ上げを決定。15年12月、全長1・6キロ、海抜22メートルの防潮堤が完成した。
 原子力規制委員会の審査に先行して独自に進めてきた津波対策。ところが自然現象の評価はいまだに完了せず、肝心の「基準津波」(想定の最大津波高)も決まらない。そこで中電は動いた。これまで同社の評価で20・3メートルとしてきた最大津波高を22・5メートルに改め、21年12月の審査会合に提示した。防潮堤を越え、構内の一部が浸水する想定だ。
 22・5メートルは規制委の指摘を受けて19年5月の審査会合で示していた値だが、当時は参考値としての扱いを主張していた。「何が一番安全を確保するために必要か検討した結果だ」。林欣吾社長は、自社の解析を基に主体的に想定を引き上げたと強調した。
 だが、規制委の指摘を受け入れざるを得なかったのも事実だ。19年以降、中電と規制委の間で平行線をたどったのは、津波高の算出に最も影響を与える「ライズタイム」の扱い。地震でプレートが跳ね上がるのに要する時間を指し、短いほど海水を押し上げる速度が増す。中電は最短で120秒としていた想定を規制委側が求める60秒として再評価し、最大値を改めた。「(120秒で)これ以上やっていても何も進まない」。関係者は長期化する審査を前進させるための苦渋の提示だったことを明かした。その後、追加の解析でさらに0・2メートル上回る22・7メートルの評価結果が出た。
 新たな想定に伴う2度目の防潮堤かさ上げはあるのか。中電は「申し上げる段階にない」と沈黙を貫く。同社によると、仮に22・7メートルの津波が防潮堤を越えて浸水しても、構内の水深は最大5センチほど。水密扉の設置や高台への非常用電源の確保などの対策を取っているが、敷地内に津波を浸入させない「ドライサイト」の原則との整合性が今後の焦点になる。
 「津波高が決まらないと市民にとっても不安だ」。4月下旬、柳沢重夫市長は中電に審査の進展を強く求めた。増田博武浜岡原子力総合事務所長は「論点は絞られてきた。一日も早く見通しを得たい」と、自らに言い聞かせるように応じた。
 

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