原発立地市の“依存”今なお 停止長期化で経済に「影響」【浜岡原発停止11年 揺らぐ思惑㊤】

 「国策である原子力政策を受け入れ、地域との共生も図ってきた本市の切なる思いをぜひとも受け止めていただきたい」

資源エネルギー庁幹部(左)を前に要請書を読み上げる御前崎市の鴨川朗副市長(右)と同市議=4月中旬、経済産業省
資源エネルギー庁幹部(左)を前に要請書を読み上げる御前崎市の鴨川朗副市長(右)と同市議=4月中旬、経済産業省

 4月中旬、東京・霞が関の経済産業省本館8階。資源エネルギー庁幹部を前に、御前崎市の鴨川朗副市長が声を強めた。傍らには増田雅伸市議会議長ら6人の市議の姿があった。
 手渡した要請書は柳沢重夫市長と増田議長の連名。原子力規制委員会による新規制基準適合性確認審査の迅速化への働きかけ、新増設など原子力発電の将来像の明示、既存原発の最大限活用の3項目を求めた。関係者によると、こうした内容は原発推進派の議員の意向が強く反映されていたという。
 他の市議には東京へ出向くことも、要請書の内容も伝えていなかった。「彼らには焦りがあると思う」。浜岡原発の再稼働に慎重な市議は、推進派による一方的な行動の思惑をこう推測する。
 同市では昨年から、再稼働の見通しが立たない中部電力浜岡原発の現状への不満が目立つようになってきた。
 「われわれにとって経済再生の特効薬は再稼働だ」。昨年11月、推進派の議員は特別委員会で強く主張した。柳沢市長は12月、全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)の副会長として原子力規制庁を訪問し、審査の体制強化や効率化を要望した。今年2月の市議会定例会初日には施政方針演説で「審査が遅々として進んでいない」と苦言を呈し、その後も「あまりにも長い」「いつまでたっても(審査合格に)たどり着かない」と公の場で批判的な言葉を並べた。
 こうした発言の背景にある一つが年々悪化する市の財政だ。市税と交付金を合わせた原発関連の歳入は停止前の2010年度に68億9900万円(決算)と一般会計の39%を占めたが、22年度は42億300万円(予算)と26%まで落ちた。稼働していないため固定資産税の課税対象外の原発設備も多く、減価償却が税収を減らしてきた。
 「市内経済に大きな変化はなかった」。昨年5月、浜岡原発の停止による影響を報道陣に問われた柳沢市長はこう答え、「10年間、原発に依存しないまちづくりを進めてきた」と胸を張った。それから約1年後、議長と連名で出した国への要請書では「審査の長期化は市政運営や市内経済に影響を及ぼしている」と、一日も早く稼働時の状況に戻す必要性を訴えた。停止して11年がたとうとする今もなお、原発に頼らざるを得ない立地市の実情が要請書の文言に表れていた。
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 浜岡原発は政府要請に伴う全面停止から14日で11年を迎える。原子力規制委員会による審査は4号機が申請から約8年、3号機は約7年が経過したが、依然目立った進展はない。現状を変えるべく、地元の御前崎市や同市議会、中電はここ1年で新たな動きを見せる。背景と思惑を探った。
 

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