砂防規制、上流拡大見送り 国と県、地権者反対理由に 熱海土石流

 昨年7月に盛り土の崩落に伴い大規模土石流が発生した熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川で1999年に砂防ダムが整備された際、盛り土などの規制区域の指定が求められる「土石流危険渓流」だった上流全域について、国と県が地権者の反対などを理由に指定を見送っていたことが、10日までに分かった。国に指定を申請した県は範囲をダム付近に限定。その後、上流域全域に区域を広げる方針だったが、約20年間放置していた。

県が逢初川の砂防ダム設置時、国に提出した申請文書。上流域で砂防指定地の指定を進める方針を記していた
県が逢初川の砂防ダム設置時、国に提出した申請文書。上流域で砂防指定地の指定を進める方針を記していた
逢初川流域の砂防指定地の指定状況
逢初川流域の砂防指定地の指定状況
県が逢初川の砂防ダム設置時、国に提出した申請文書。上流域で砂防指定地の指定を進める方針を記していた
逢初川流域の砂防指定地の指定状況

 上流域に造成された盛り土は砂防法の規制区域「砂防指定地」の対象にならず、昨年の大規模土石流で土砂をダムで止められなかった。砂防指定地では土砂投棄や盛り土に許可を必要とし、実際に適用された県土採取等規制条例より規制力が強い。上流全域を規制していれば、造成の歯止めになった可能性がある。
 県はダムの完成に向け、旧建設省(現在の国土交通省)に指定を申請した98年の文書で「地域性から、地権者の同意を得るのが難航し、同意の見通しも立っていない。渓流の荒廃は進んでいるものの流域上部は管理された植林地帯である」と記載していた。しかし、指定に際し地権者の同意は法的に不要で、その後、上流域の森林では開発が進められた。
 指定パターンの欄には「地権者の同意を得られないためとりあえず標柱指定(限定的な指定)」と記し、今後の方針について「流域全域の面指定を進めていきたい」と明記していたが、20年以上にわたり当初の範囲を広げなかった。県砂防課は取材に「地権者の私権に配慮し、砂防ダムを早く設置できる指定方法を選んだ」と説明。指定後に上流域で段階的に開発が進んだことは「指定地外で、情報を把握していなかった」と答えた。
 国は県の申請審査で範囲の変更を求めずに指定した。国交省砂防計画課は「指定範囲は地域の事情をよく知る県の責任で決めている」とし、国の指定そのものには問題がなかったとしている。
 県によると、砂防ダムの容量は4200立方メートル。今回の土石流では想定を上回る約5万立方メートル(推定)が下流域に流出した。

〈メモ〉砂防指定地 砂防法に基づき土砂災害防止のため一定行為を規制する区域。国土交通大臣が都道府県の申請を審査し、土砂を受け止める砂防ダムと土砂の発生源となるダム周辺を指定する。上流域全体を規制する「面指定」が原則だが、ダム付近に限定する「標柱指定」など複数の指定パターンがある。規制内容は都道府県の条例で定め、本県は盛り土や土砂の集積・投棄、竹木伐採などの際に許可が必要になる。

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