幼児教育にデジタル教材 袋井市、凸版印刷と実証実験 協働性や表現力育成にも

 袋井市が2020年度から凸版印刷(東京都)と連携し、幼児教育の現場でデジタル教材活用の実証実験に取り組んでいる。市立幼稚園などにタブレット端末を貸し出し、同社提供の教材を使った遊びを展開している。デジタル教材で数や図形などへの関心を育みつつ、アナログの体験に発展させる遊びを通じて、子どもたちの協働性や表現力など「非認知能力」の育成も目指している。

タブレット端末で重さの比較を体験する子どもたち=1月、袋井市立浅羽西幼稚園(市教委提供)
タブレット端末で重さの比較を体験する子どもたち=1月、袋井市立浅羽西幼稚園(市教委提供)


 実証実験に使うのは同社が開発中のアプリ。既に絵本とアプリによる家庭向けの幼児教育教材「できるーと」を提供している同社が幼稚園・保育園向けのサービス化を目指す中、20年度は3カ所、21年度は5カ所の幼稚園や認定こども園で、年長児クラスにアプリを使えるタブレットを貸し出した。
 アプリは「間違い探し」や「形」など、最大10単元を提供した。子どもたちは2~3人で端末を使ってゲームを行い、数や図形、重さなどの感覚に触れた後、教諭らの声掛けで教室や園庭で関連した遊びに取り組む。デジタルで触れた抽象的な概念をアナログの体験に結び付けることで、実感を伴いながら理解するとともに、子ども同士で協力しながら学びを深める。

photo02 タブレット端末での活動後、実際に身近な物を使って重さを比べた=1月、袋井市立浅羽西幼稚園(市教委提供)
 タブレット上のシーソーで重さを比較した後、ゴムでつり下げた袋に身近な物を入れて見た目と重さの違いを考える「重さ比べ」、丸や三角などの図形に触れた後、園内を探索してさまざまな形を見つけ出す遊び―。異なる大きさの箱を積み上げる「高さ比べ」を発展させ、運動会の競技にした園もある。
 アプリには子どもたちが写真や動画を撮影する機能もある。子どもの目線で新たな発見や試行錯誤の様子を記録し、クラスで共有して友達に自分の思いを発表することもできる。同社教育事業推進本部の丸山亜沙美主任は「園向けのアプリは『皆で取り組む楽しさ』が特徴。実際に使った先生からは、子どもたちが友達の話を聞けるようになったり、伝え方を工夫したりする姿が見られたという声が寄せられた」と効果を語る。
 市教委すこやか子ども課の深谷初女指導主事は「普段は『楽しかった』という感想で終わる子が、記録を見ながらどんな風に、何が楽しかったのかを具体的に伝えられる。友達に見てもらうことが自信にもつながり、子どもたちが伝える内容が確実に膨らんだ」と振り返る。
 デジタル教材の活用は職員側にも、教材準備の負担軽減や記録による客観的な気づきなどの効果があるという。深谷指導主事は「デジタル教材に頼るのではなく、あくまで教材として生かして、アナログの体験を充実させたい」と狙いを話した。
 実証実験は3年目の22年度も、改良したアプリを園で活用するほか、小学校に進んだ子どもたちの追跡調査を予定している。

熱海市は全園に端末整備 ICT環境 市町や園で差


 県内では熱海市が2021年度、市内の公私立全ての幼稚園と保育園、認定こども園の9施設にタブレット端末を整備した。市教委によると、年長児クラスで2人に1台を配置し、園内外の活動記録や子ども同士の伝え合いに利用している。園ごとに文字や時計など無料の知育アプリやデジタル図鑑も導入しているという。学校教育課は「小学校の5教科をイメージしつつ、端末ばかりの活動にならないよう各園で工夫している」としている。
 国主導で端末や通信環境の整備が急速に進んだ小中学校とは異なり、幼児教育の現場はICTの環境が市町や園で大きく異なる。県教委が21年度に市町を対象に行った調査では、職員に個別のメールアドレスを設定している市町は半数程度、職員用パソコンでネット接続ができる市町は3分の1程度にとどまった。県教委の福井孝子幼児教育推進室長は「園のICT化を支援する国の補助金もあり、まずは業務面から進む形になるのでは」と話した。

自己管理能力 重要に


photo02 浜松学院大短期大学部長 今井昌彦

 県内の幼児教育の現場でデジタル教材やタブレット端末活用の試みが始まった。環境変化の中で育つ子どもたちへの教育のポイントを、今井昌彦浜松学院大短期大学部長に聞いた。
 ―幼児教育で注目される非認知能力とは。
 「学力のように数値化できないが、社会生活に必要な力として注目されている。国が幼稚園教育要領などで示した『幼児期の終わりまでに育ってほしい姿』では、10項目の大半を自立心や社会性などの非認知能力が占める。このうち『数量や図形などへの関心・感覚』は、国が小中高で重点を置いたプログラミング教育につながる視点。幼児教育の現場では、自然と親しむことや友達と仲良くすることなど、コンサバティブな教育方法を重視する意見が強い。もちろんこうした教育が基盤にはなるが、今後は時代に応じたプログレッシブな教育も必要になる」
 ―幼児期にはどんな働きかけが効果的か。
 「学習塾やプログラミング教室が低年齢化しているが、子どもたちにはあくまで『遊び』から入ることが重要。子どもが楽しいと感じるほど脳裏に残り、成長や次への橋渡しになる。自分は子どもの創造力を育む遊具を『創具』と呼び、国産創具の開発に取り組んでいる。海外の知育玩具『カプラ』や『キュボロ』が有名だが、構造化や配列能力、展開力を育む遊びはプログラミングに通じる。こうした狙いを意識した遊びは学校教育への準備にもなる」
 ―デジタル端末の利用で悩む親も多い。何を心がけるべきか。
 「今はスマートメディア氾濫の時代。子どもたちは生まれた時から多数のスクリーンに囲まれ、ネット接続が当たり前の環境で育つ。この環境下では、子どもたち自身が時間を有効利用する“ウィズメディアの自己管理能力”がとても重要。東北大の研究で、スマートフォンの利用時間が長い子ほど、家庭学習をしても学力が下がるという結果が出た。勉強後のスマホやゲームで短期記憶が失われる可能性も指摘されている。学力に加え、スマホ利用での急性内斜視や難聴、不眠症などの健康被害も報告されている。こうしたリスクを知った上で、メディアの使い方を家族で一緒に考えることが、学力低下や将来の健康被害を防ぐ手だてになる」

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