企業経営の手法活用 多様なパワーで地域元気に【NEXTラボ】

 最近よく耳にする「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包含)」。性別や年齢、国籍、価値観の違いなどを超え、さまざまな人材が力を発揮して組織の活力を上げようという考え方だ。企業経営などで重視されるこの考え方を、地域全体に生かす試みが本年度、静岡市で始まった。全国的にも珍しいというこのプロジェクト。どんなスタートを切ったのだろう。

ホワイトボードに貼られた付箋。異なる立場の参加者がアイデアを出し合った
ホワイトボードに貼られた付箋。異なる立場の参加者がアイデアを出し合った
目指すべき地域像などについて考えたワークショップ=4月下旬、静岡市葵区
目指すべき地域像などについて考えたワークショップ=4月下旬、静岡市葵区
目指すべき地域像などについて考えたワークショップ=4月下旬、静岡市葵区
目指すべき地域像などについて考えたワークショップ=4月下旬、静岡市葵区
白石克孝 龍谷大教授/国保祥子 県立大准教授
白石克孝 龍谷大教授/国保祥子 県立大准教授
ホワイトボードに貼られた付箋。異なる立場の参加者がアイデアを出し合った
目指すべき地域像などについて考えたワークショップ=4月下旬、静岡市葵区
目指すべき地域像などについて考えたワークショップ=4月下旬、静岡市葵区
白石克孝 龍谷大教授/国保祥子 県立大准教授


 「地域生産性向上プロジェクト」と銘打ち、公益財団法人日本生産性本部(東京)が全国で初めて静岡で企画した。地元企業や商工団体、大学、行政機関などから40人余りが参加している。それぞれの組織単独では解決が難しい地域課題に連携して取り組み、活力ある地域づくりを進めるのが狙いだ。
 開催地に静岡を選んだ背景には、若年人口の流出や女性活躍の遅れなど、地域全体に関わる課題の存在がある。3月に発表された「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」では、静岡県は経済分野で45位と低迷。家事育児などに使う時間やフルタイムで働く人の割合、企業の社長に占める割合などの男女格差が際立った。
 プロジェクトは4月下旬、地域課題について意識を共有し、解決の道筋を考える初のワークショップを静岡市内で行った。今後はオンラインも活用し、年間をかけてより具体的な行動目標を設定していく方針。同本部の斎藤亮さんは「地域課題が複雑化する中、多様な組織が協働し、共通の認識や目標を持って役割を果たすことが重要になる」と強調する。

何が課題?どうしたら? ワークショップで意識共有


 初回のワークショップでは、地域経営に詳しい白石克孝龍谷大教授とインクルージョン領域が専門の国保祥子県立大准教授が講義を行い、その後、参加者がグループに分かれて地域が目指すべき姿や、実現の方法を話し合った。
 静岡大2年の小森史靖さん(21)が進行役を務めたグループは、20代が中心。地域の目標設定に向けた「どんな静岡なら皆が住みたがるか」のアイデア出しでは、「やりたいことをやりたいと言える」「自分のままでチャレンジできる」など意欲を支える環境を求める声が目立った。
 グループは目標を「自分に合った活躍ができる」と設定。実現方法を議論する中で、就活を控えた県立大3年の山本茉由さん(20)は、「静岡で東京などと同じ挑戦ができるのか分からないと感じる」と自らの迷いを吐露した。静岡市職員の大林美月さん(27)は「自分自身の反省を込めて」としつつ、「(地域に)ロールモデルがいない」と課題を記した。
 静岡市内の損保会社に勤務する岩本茉祐花さん(23)からは、流出が指摘される世代として「挑戦していることを発信する」という行動案も。グループはこの日のまとめとして、企業や商工団体、行政、大学などと連携した「静岡で働く20代女性のリアルな声が聞ける学生向けサロン」の開催を提案した。



ダイバーシティとインクルージョン なぜ今


 若者引きつける鍵 白石克孝 龍谷大教授
 人口減少のもたらす変化は、農村だけでなく都市にも押し寄せている。日本では地域生活を支えてきた伝統的な地縁、血縁型の社会の力が急速に弱まり、それに代わる決定的な力を見いだせていない。
 人口増や経済成長といった過去の指標で測れば地域が衰退の一途をたどる中、地域経営の方法や成長についての考えを転換しなくてはならない。行政や住民、企業、NPOなど幅広い地域の構成員の支え合いを通じ、新たな「善」や「幸せ」を希求する作業が必要だ。関係者が共に目指すべき方向を見いだす「ネットワーク型ガバナンス」が求められる。
 そのために問われるのは、多様な人の関わりが容易な「インクルーシブかつオープンな地域」であるかということ。若者の故郷への愛着は、現代では地域の課題を見つめ、解決に参画する中で培われていく。それができる環境が、若者を地域に引きつける力になる。

 能力発揮に不可欠 国保祥子 静岡県立大准教授
 労働人材が不足する中で、企業にとってダイバーシティの推進は避けて通れない課題になっている。社員の経験やスキル、知識の多様性の確保は企業価値の強化につながる。そうした多様性を尊重すれば、必然的に性別や労働への考え方などの多様性も尊重することになる。
 ダイバーシティを業績に生かすのに重要なのがインクルージョンという概念。「(組織への)帰属感と自分らしさが両立している状態」と説明できる。自分らしくあることは、同調圧力から逃れ、能力を最大限発揮するために欠かせない。
 一方、静岡のダイバーシティは、特にジェンダーに関して、遅れている日本の中でも特に遅れが目立つ。若年女性の流出は大きな地域課題だが、流出の理由は、「インクルージョンを感じられないから」と分析できる。この状況を踏まえ、関係者が共にできることを考えていく必要がある。

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