凧製造老舗 窮地乗り越え、伝統後世へ【2022浜松まつり㊦】

 麻の張り糸をピンと張って6帖(じょう)凧(だこ)をそらせ、トラックの荷台に慎重に運び込む-。江戸時代後期創業の凧製造の老舗「上西すみたや」(浜松市東区)で4月中旬、仕上げと出荷の作業が熱気を帯びていた。例年、浜松まつりの凧の約半数を受け持つ。10代目店主の大隅文吾さん(50)は「多くの支えがあって、凧を作ることができる」と喜びをかみしめた。

麻の張り糸で凧をそらせる出荷前の仕上げに取りかかる大隅さん(右)=浜松市東区の上西すみたや
麻の張り糸で凧をそらせる出荷前の仕上げに取りかかる大隅さん(右)=浜松市東区の上西すみたや

 26歳の時、会社員を辞め、家業を継いだ。中学生の頃から手伝っていた凧作り。「継ぐことと、祭りが存在し続けることは当たり前という認識だった」。だが、コロナが「浜松の空」を一変させた。
 毎年、大小200~300枚を作ってきたが、一昨年は中止。規模を縮小して2年ぶりに開催した昨年の受注はわずか10枚ほど。収入はコロナ前の1割まで落ち込んだ。「こうも簡単に仕事がなくなるのか」と、店を続ける自信を失いかけた。
 そんな中、地元有志から「製造店を守りたい」と提案を受けて、「一瀬堂際物店」(中区)とともに、クラウドファンディングによる運営資金集めを試みた。支援の輪は予想以上に広がり、目標の200万円を上回る290万円が寄せられた。
 「祭りがあるのは当たり前ではない。文化と伝統を後世に残さなければ」。全国からの応援の重みを実感し、再び奮い立った。
 今年の受注はコロナ前の半数まで戻った。「復活した祭りを支援者に見てもらい、感謝の気持ちと凧を作り続ける決意を示したい」と大隅さん。手掛けた凧が中田島の空を舞う日を心待ちにする。
 (浜松総局・金沢元気、柿田史雄、北井寛人が担当しました)

 <メモ>衣装や道具の製造販売店をはじめ、浜松まつりの関連産業はコロナ禍で大打撃を受けた。今年は回復の兆しが見えつつも、仕出し料理店や酒屋は厳しい状況が続く。コロナ前は、経済波及効果は60億円規模とする試算もあった。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞