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ヴァンジ彫刻庭園美術館「説教壇」 2002年 ジュリアーノ・ヴァンジ作【美と快と-収蔵品物語㉕】

 現代イタリアを代表する具象彫刻の巨匠ジュリアーノ・ヴァンジ(91)。長泉町のヴァンジ彫刻庭園美術館は彼の世界唯一の個人美術館として2002年4月28日に開館し、今年で20周年を迎える。同館の象徴的な作品の一つ「説教壇」は創設者の岡野喜之助さん(1947~2016年)が、ヴァンジが多く携わってきた宗教彫刻を彼の重要な仕事と捉え、開館に合わせて制作を依頼したものだった。

「説教壇」 大理石、ポリクローム、160×85×83センチ
「説教壇」 大理石、ポリクローム、160×85×83センチ
「紫の服の男」1989年 木彫、ポリクローム、174×57×53センチ
「紫の服の男」1989年 木彫、ポリクローム、174×57×53センチ
ヴァンジ彫刻庭園美術館
ヴァンジ彫刻庭園美術館
「説教壇」 大理石、ポリクローム、160×85×83センチ
「紫の服の男」1989年 木彫、ポリクローム、174×57×53センチ
ヴァンジ彫刻庭園美術館



荘厳さ 建築と一体化


 1995年以降、ヴァンジはイタリアのピサ大聖堂の内陣彫刻やバチカン美術館のエントランスホールなど数々の宗教彫刻を手掛けている。同作は97年にヴァンジが初めて取り組んだ宗教彫刻であるイタリアのパトバ大聖堂内陣の姉妹作として制作された。喜之助さんの長女の岡野晃子副館長(48)は「ヴァンジが制作したさまざまな説教壇は文化的に重要であり、(喜之助さんは)姉妹作を日本の地に設置したいと考えていた」と明かす。

 司祭が聖書を読み上げたり演説をしたりする場所として、床から一段高い場所に作られている。荘厳な雰囲気の女性の頭部が表現され、その下は知恵を象徴する書物の形をしている。背後は書物の背表紙がかたどられ、聖書を思わせる。女性の顔の横から後ろにかけてはオリーブの木。生命や平和を象徴する。

 制作者、建築家、創設者のやりとりの中で生まれ、メインの大理石は建築と一体化するように床面と同じものが使用された。学芸員の村内みれいさん(29)は「象眼という技術を用い、3種類の大理石を組み合わせて作られた同作からは技術力の高さが分かる。伝統的な技法を生かしつつ、新しい宗教彫刻の形を模索して制作された」と解説する。

 「激しく、静かで、ゆったりとした作者のように、この美術館も優しくおおらかな空気の流れるみんなの広場に育ってほしい」との言葉を残した喜之助さん。村内学芸員は「彫刻、庭園、建築といった多彩な魅力をアートファンだけでなく、さらに広く伝えていきたい」と話す。



人間個人の感情内包


 ヴァンジは一貫して人間のさまざまな感情や葛藤を具体的な形によって表現してきた。1995年にイタリア・フィレンツェで開かれた個展に出品し、ヴァンジの意向で同館に収蔵された「紫の服の男」も、何かを思索するような男性像だ。
 服はアクリル絵の具で塗られた鮮やかな紫。始めは色彩に目がいくが、次第に頭部や手へと視線が誘導される。比較的大きく、細やかに作られた頭部や手はそのほかの簡略化された部分と比べて強調され、人間の感情を主張する。

 村内学芸員は「宗教彫刻を多くの人に向けた開かれた作品とするならば、『紫の服の男』は人間個人の感情を内包し、作家の多面性が見て取れる」と説明する。

ヴァンジ彫刻庭園美術館


 長泉町東野クレマチスの丘347の1。「紫の服の男」などが出品された1995年の個展を喜之助さんが見たことがきっかけで創設へと発展した。彫刻、絵画、版画、写真など、ヴァンジの作品を中心に約250点を収蔵する。建築家宗本順三さんが設計を手掛けた。庭園は一年を通して楽しめるクレマチスなど、四季折々の花や緑が来館者を出迎える。

 60年代~2010年代のヴァンジの作品を常設コレクションとし、庭園、展示棟に約50点が並ぶ。現代作家による企画展や各種文化イベントも開催する。掲載した2点は常設展示している。

 <第1~4月曜日に掲載します>

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