西伊豆町の海藻養殖 本格着手へ 漁業者との連携強化が鍵【解説・主張しずおか】

 西伊豆町は同町田子の田子漁港がある湾の内部が未利用であることに着目し、試験的な海藻養殖に取り組んでいる。町外の民間事業者に知恵を借りてハバノリなど複数種類の育成を試み、適した海藻を見定めるのが狙い。取り組みは緒に就いたばかりで、地域の水産業にどれほど効果が見込めるかは未知数だ。本格的な事業化を目指す上で、地元漁業者との連携が欠かせない。

養殖ハバノリなどの生育調査。順調な成長が見られた=4月中旬、西伊豆町の田子漁港
養殖ハバノリなどの生育調査。順調な成長が見られた=4月中旬、西伊豆町の田子漁港

 「食害もなく、順調に成長している」。4月中旬、田子漁港で行われた生育調査。町に養殖技術やノウハウを提供する合同会社「シーベジタブル」(高知県)の蜂谷潤共同代表(34)は船から海中を観察し、手応えを口にした。
 試験に用いる海藻の多くは昨年6月ごろに田子漁港で種から採取し、同社が自社の研究所で繁殖させた。育った海藻をことしから漁港に移して観察を続けている。蜂谷共同代表によると、田子漁港は潮通しが良く、台風でも海面が荒れない地形が養殖に向いているという。
 町は本年度中に適した海藻を見極め、来年度から本格的な養殖に着手したい考え。事業の効率化や養殖範囲の拡大を図るため、将来的には地元の漁師らに一端を担ってもらう構想を抱く。町担当者は「軌道に乗れば水産業の発展に加え、新たな雇用の創出が見込める」と意気込む。
 ただ、漁師の高齢化が進む中、地域を巻き込み、新たな事業を根付かせるのは容易でない。伊豆漁協田子支所の真野創支所長(59)は取り組みに前向きな姿勢を示す一方、「漁師に海藻養殖の知識がある訳ではない。今は事業の方向性が不透明で関わり方が見えづらい」と話す。町には、どのような事業体制を整えるのかといった議論を地域と深め、綿密な情報共有を図る姿勢が求められる。
 販路の確保も課題の一つ。町は同社の考えに沿い、ワカメや昆布など主要な海藻ではなく、養殖では未開拓の海藻を扱うことで他地域との違いを出し、ブランド化を図るとしている。同社が持つ販路に頼るばかりでなく、町内で消費を広げたり、ふるさと納税の返礼品として外部にPRしたりするなど、さまざまな方策を模索する必要がある。
 田子はかつてカツオ漁で栄えた港町。高齢化により、ピーク時に30隻を超えたカツオ船は現在、1隻もない。海藻養殖は、そんな衰退が続く港に活気を取り戻す反転攻勢の足掛かりとなるか。町が潤滑油の役割を果たし、地域ぐるみの事業に発展する展開を期待したい。

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